02.鍵山千春

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「あの…」  数日後、宮城は図書室に再び姿を現した。  先日の本を返しに来たのだろうが、彼女がそれに言葉を添えるということは初めてだった。 「何」 「いや、相談したいっていうか…」  1匹狼が私に何を相談するというのだろう。これ以上幻滅したくなかった。  帳簿に書き留める作業を止めずに言う。 「だから、何。あなたに使う時間なんて用意してないんだけど」 「あの…彼女できた…っぽくて」  だから何。  あの子とはそういう関係ではないと伝えたはずだ。  更に苛立つ自分がいた。 「それを私に言ってどうしたいの」 「いや、だから自分でもどうしたらいいかわかんないんだって…」  帳簿に記す手を止めた。  宮城の顔を見やると、本当に困ったような顔をして目線を彷徨わせている。  まるで藁にでも縋りたがっているような顔をしていた。  なるほど、1匹狼らしいじゃないか。 「その人のこと、好きじゃないの」  いじわるめいた私の問いにはっとしたような顔をしたかと思ったら、真剣に逡巡する素振りを見せた。  そして私の目の前で散々考えあぐねた挙句、 「…わかんない…」  と呟いた。  今まで無縁だったものが急に目の前に現れて狼狽する宮城を見て、そのあまりの滑稽さに吹き出してしまった。 「バカなの?」  私が笑いながら言うと、宮城は恥ずかしそうに、不満そうに私を見下ろしていた。  なかなか可愛いところがあるのだな、と思った。  これからも構ってやってもいいか。そう思えた。
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