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05.伝える手段と知る手段
「宮城しの」
いつものように、書架の背中にもたれて本を読んでいたら鍵山が声をかけてきた。
なかなか珍しいことだった。
「どうしたの」
「お願いがあるんだけど」
話を聞くと、歌子と会ってみたいという要求だった。
大森が少なからず関係しているのかな、とぼんやり思った。
もちろんというべきか否か、大森も連れていくことが条件にあった。
私と歌子と鍵山と大森の4人で出かけるのを想像して、少し奇妙な絵面だな、と思った。
断る理由もなかったのでひとまず了承した。
* * *
「学校の友達と図書館?」
それは珍しくシノ君からの提案だった。
「うん。その子、歌子に会ってみたいって」
パズルのピースを合わせるかのごとく、様々な記憶を照合した。
あの日、女の子同士でキスをしていたと言っていた子たちかなと思い至った。
「その友達にはわたしとのこと話してるの?」
「うん。知ってる」
わたしのことを話している。ほのかに内容の予想がついた。
やっぱりわたしはシノ君を困らせているのだろうな、と思って少し心が痛んだ。
それにしても、その子がわたしとシノ君の関係を知っていながらわたしに会いたいとは、少なからず恋の悩みを抱えていそうだ。
応援してあげようじゃないか。
「うん。いいよ」
わたしはこの日に鍵山千春と大森ひなた、という名前を新しく覚えた。
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