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ロドルさんよォ、とシドは言った。ロドルは支配人用のワインセラーから一本ワインを取り出して、シドの向かいの椅子に戻ってきた。
「頼まれてたもの、調べてきましたァ」
「おう、ご苦労さん」
シドの置いた書類にロドルはぺらぺらと素早く目を通す。指示した割にはあまり興味がないのか、一回見ただけで置いてしまう。シドが少し不服そうに椅子を揺らしたが、ロドルはやはり気にすることもなく薄く笑みを浮かべていた。
「まあ、思い通りだ」
ロドルはワインの封を開け、コルクスクリューを栓に突き刺した。それからじわじわと引き抜いていく。やがて芳醇な香りがあたりに充満し始める。
「いい匂いだ」
「種類は知らんけどな、いつだったか財産として出してきたヤツだ」
「俺にも下さいよォ」
「お前、いつまでここにいるんだよ」
ワインの栓を完全に引き抜き、そしてワイングラスに注いだ。当然、シドの分はない。グラスの半分ほどまで入れて、それらしくグラスを傾かせてみせる。
「様になってるだろ」
「そっちには心底興味ねェです」
「言うねえ」
ロドルは愉快そうに笑って、グラスを呷った。
「……それで、お前はいつ帰るんだ」
「そうしろと言うならば、今すぐにでも」
嘘か本当かもわからない雰囲気で、シドは言った。ロドルはもう一杯ワインを呷って、少し考えるような恰好をし、あまり快く思っていないとでも言いたげにシドを睨む。怖いですねェ、とこれまた胡散臭い顔で言ってのける。
「もしかしたら、また仕事してもらうかもな」
にわかに言って、そこでようやく溜め息をグラスの中にこぼした。
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