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昼休みになると春樹は生田と昼食のパンを買いに購買に向かっていた。
「ここのパン、結構おいしいって評判だったから楽しみだったんだよなー」
「そうなんだよ! しかも出来立てほやほやでさ……あ」
「ん?」
生田が歩いていた足を止めて硬直する。
その方を見ると背も高く横幅も広い大柄な男子がいた。
生田は小声で春樹に耳打ちする。
「あいつ、ヤバイやつだから気を付けて。広野永次っていうんだけど、いわゆる……ガキ大将みたいなやつで」
「ジャイアンみたいな?」
「そうそう、だから西山くんも……って、え!?」
生田の助言を受けておきながら春樹は一人でその方に向かっていく。
そして広野の前に立った。広野はギロッとした目つきで春樹を睨みつける。……威嚇だ。
大抵の者はその視線を受けただけで怯えてしまうのだが、春樹は違った。
なんでもないという様に片手を差し出す。
「あぁ?」
広野は不機嫌そうな顔を春樹に向けた。しかし春樹の表情は変わらない。
「改めて、転校生の西山春樹だ。同じクラスだろ? よろしく」
「……その手はなんだ」
「握手の手。ほどほどでいいから、仲良くしよう」
春樹が無理やり広野のパンを持ってない方の手を引っ張って自分の手と握手させる。
その行動に一瞬あっけにとられた広野は我に返り、「あぁ、そうだな」と言いながらわざと握手している手に強烈な力をこめた。
それが目に見えた生田は恐怖を顔に張り付かせ、「西山くん……!」と言ったその時。
苦痛に顔を歪めたのは広野の方だった。
「……ってめぇ……」
握る両者の手はわずかに震えており、春樹の方が強い力で広野の手を握りしめていた。
「よーし、これで仲良し。改めてよろしく」
そうして手を離すと、広野は握られていた手をぶんぶんと何かを払うような手つきをして、無言で春樹の横を通り過ぎる。
「そんじゃ、行こっか」
と言いながら背後の生田を見たら、またキラキラとした目で見つめられた。
「すごい……すごいよ西山くん! ケンカ強いんだね!」
「いや……ケンカじゃなくて握手しただけで……」
何か勘違いされてるな、と春樹は内心ため息をつく。
「でも気を付けてね、あいつに目をつけられたら色々と酷いことされるかもしれないから……」
「んー、まぁその時は止めに入ってね、生田」
「えっ僕!?」
「……冗談」
半分は本心なんだけど、と心の中でつけたし、春樹は生田に微笑んで見せた。
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