香る紙

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香る紙

スマホやタブレットが珍しくない世の中になり、今は更に時代が進みほとんどの人はメガネの様なゴーグルをつけて生活している。 実際、俺も黒縁メガネ型のゴーグルを着けて友達とチャットや電話をするし、学校の授業も黒板と連携して目の前に写しだされる。 「そんな時代だってのに手紙とか…。」 いくら電子の世界になったとしても不具合があっては何も出来なくなる。 なので今でも大事な書類は紙を使っているが、高校生の俺には大事な書類など無いし、自ら紙にペンで書く用事も無いから、ポストに俺宛の手紙があった時は驚いた。 白い封筒をめくって送り主を見ると、中学時代のAIの友達、ヒナノからだった。 「あのヒューマノイドが紙とか、余計に気持ちわりぃ。」 ヒナノと出会ったのは、AIと合同の中学で隣の席になった時だ。 街ではちょくちょくAIを見て慣れてはいたが、他のAI生徒よりも外見が綺麗なヒナノは、その中でも表情が少なくて、こう言うのも変だけれど、血の気が全く感じられなかった。 初めこそ、せっかく隣になったのだから仲良くしようと思ったが、いくら話しかけても一言二言しか返してこない。 しかも、いつだったか朝からしゃっくりが止まらずヒックヒックしているのを隣で見て、聞こえるか聞こえないかで電子音をピピッと出しやがった。 これは機械検査の際に異常が起きた時に出す電子音を真似ていて、ヒューマノイド達の軽蔑の念だ、この時は本当にムカついて、持ち込み禁止の強力磁石を持ってきて投げつけてやろうかと思った。 それ以来クラスも離れて、俺はヒナノの存在を今の今まで忘れていた。 思い出したくもない事思い出しながら封を開けると、中には当然紙が入っていて、少し硬い質感の上に丁寧にも筆ペンで文が書かれている。 そして、始めの文字を見た瞬間、俺は思わずゴーグルを外してゆっくりとその文字を読み取る。 「処分、通知…?」 最近ニュースで、暴徒化するAIが次々に処分されていたのは知っていた。その時に一応は親族に知らせなければいけないので、頭のチップを読み取り、その中で情報の優先順位が1番高い人物に処分される1週間前に処分通知がいく事になっている。 大抵は親や兄弟、レアなケースでも溺愛していたペットや大好きな芸能人だ。 「なのに、なんで俺なんだ…?それにこれが来たって事は1週間後にヒナノが…。」 わかりたくない事実が頭を埋め尽くす。 いくらそんなに好きじゃない相手だったとしても、少しは関わりを持った以上胸がざわつかないはずが無い。 手紙を読み進めると難しい言葉で、薄っぺらい挨拶とお悔やみの文があり、最後の方に面会と処分の日時が記載されていた。 面会と言う文字が、既に一般人扱いをされていない様に感じて更に心が重くなる。 でも、俺は、そう思う事しか出来なかった。 ここで仲が良かったり、初恋の相手であったりすれば直ぐに駆けつけただろうが、俺とヒナノはそんな関係では一切ない。 なんならこの手紙を破いて見なかった事も忘れる事も出来る。 しかし、そんな事を出来る勇気や度胸も無い。 「どうすればいいんんだよ…。」 手紙をぐしゃりと握りつぶしたまま、考え込む時の癖で手をおでこに当てる、その時ふっと手紙から鉄臭い匂いがして俺はぎゅうっと胃が締め付けられた。 「…っ!今どき、手紙なんか送んじゃねぇよ…!!」 俺はゴーグルをはめ直して手紙に書かれていた住所へと走り出した。
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