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佐伯の場合
毎日、毎日忙しくてやってられない。仕事場では怒鳴られ一日中座ってキーボードを叩くだけ。たまの休日だって言うのにお気に入りのカフェは閉まっていた。
仕方がない。散歩するか。
入り組んだ道をわざと奥へ奥へと進んでいく。こうなりゃヤケだ。ひたすらに歩いてやる。
15分は歩いただろう。気がついたら、人通りの無い場所へと来てしまった。ハッとして前を向くと、古びた家が立っていた。店、なのだろうか?外観だけだとよく分からない。しかし、店だと信じて緑色の扉に手を掛ける
「いらっしゃいませ」
正解だった。白髪のまるで、幼い頃に信じていたサンタのような風貌の店主が椅子に座り出迎えてくれた。
「おもひで品物屋へようこそ」
「おもひで品物屋…?」
ピンと来ず、辺りを見渡すが商品らしき物は何もない。何か買わずに出るのは失礼だろう。しかし品物が無い。メニューもない。俺は店主に目を向けると彼は立ち上がり、店の奥へと行ってしまった。
「お待たせしました」
そう言って店主が出してきた物は何の変哲もない只のスケッチブックだった。
「なんだよ、これ…」
「中を見てみてください」
開いて見て驚愕した
「何処でこれを…!」
「あなたの思い出は巡りに巡って私の所へ来たのです。」
理由になっていない説明に眉を顰めながらも1ページずつ紙を捲っていく。
そのスケッチブックは、夏休みの自由研究だった。
夏休み終盤に焦って適当に書きなぐった小3の夏。
遊び呆けて自由だった。大人になった今、もう少し自由に生きてみてもいいだろうか?この時みたいに。
「懐かしいな…これ買うよ、いくらだ?」
「もとはあなたの物だ。お代はいりません。」
「でも、ここは店だろう」
「名目上はそうですが…ボランティアみたいなものですから。」
「…?そうか、ありがとう。」
緑色の扉にまた、手を掛ける。同じ動作の筈だが来るときよりも足取りが軽かった。
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