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水澄の場合
もういいです!離婚しましょう…!
そんな会話をした3日後に夫は出て行った。若い女の元へ向かったらしい。
私はというと娘の梨花を保育園へ預け、街を彷徨っていた。
自分から切り出した別れの筈なのにこんなに辛いとは。まだ当分、立ち直れそうにはない。
フラフラと道を歩いていると知らない場所へ出てしまった。
「ここは…」
小さな家が目の前に建っている。私は、吸い込まれるようにして緑色の扉に手を掛けた。
「いらっしゃいませ」
「おもひで品物屋へようこそ」
お店には見えなかったけれどどうやらお店らしい。
アンティークショップかと思って見渡すけれど商品はない、商売道具の筈のレジスターすら見当たらない。
戸惑いながら白髪の店主を見つめると、ゆっくりと椅子から離れ、店の奥へと行ってしまった。
「お待たせしました」
持ってきたものは写真だった
その写真を見て、息が詰まる
「っ…これは…」
「巡りに巡って私の元へ来たのです」
結婚式の写真だった
___元旦那との。
「見たくないのに…!やめてちょうだい!」
「思い出から目を背けないで下さい。過去を切り捨てる事はできない。」
そう言われ、仕方なく写真を見つめるとあの時の事が体中に流れ込む。
___幸せね___
___あと数年もしたら子供いるかな?___
___結婚式なのに?まだ気が早いよ___
___そうかな?___
「っ…ああ」
ひとしきり泣いた後、店主に目を向ける
「あんな旦那だったけど一つだけ感謝してる事があるんです」
それは、梨花が生まれた事。彼じゃなければ梨花はこの世に存在しない。
「ねえ店主さん、その写真買うわ。」
「おや、見たくないんじゃなかったのかい?」
「過去を切り捨てる事はできないんでしょ?」
「そうですね。お代は結構ですよ。」
「色々とありがとう!」
店から出て、歩みを進める。
写真を見つめると笑顔の2人がそこにいる。今は2人じゃない。けれど独りぼっちでもない。梨花がいるんだから。
「さあ、可愛い娘を迎えに行かなくちゃ!」
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