冬将軍の国で人形は。

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 従業員用休憩室に入ると、同僚が興奮気味に話していた。 「見てこれ、展覧会初日のトークショーに当選したの!!」 彼女はそう言ってチラシを他の同僚に見せていた。ちらりと見ると、球体関節人形展だった。 「良かったじゃない」 「シフトはちゃんと空けてあるのよね」 「楽しんで来てね」 京堂響(きょうどうひびき)は彼女たちの輪には加わらず、コンビニで買ってきた食事を持ってビルの屋上に行った。ビルの屋上は従業員用休憩スペースとして開放されていて、ゴムマット敷きの床に長いベンチとテーブルが据えられ、透明ビニール製の屋根が雨を凌いでいた。  女性の同僚が嫌いと言うわけではないのだが、とにかくうるさい。ファッショングルメ、最近ではインスタグラム映えがどうとかこうとかで、興味のない人間には雑音にしかならない話を延々と繰り返すから、響は休憩室では極力避けていた。もっとも彼女たちも、京堂と積極的に関わりたくは無いだろうが。  昼食も食べ終えて、ロッカールームに併設されている休憩室に戻ると、球体関節人形展のチラシが山と置かれていた。 「……」 あの同僚の販促活動だろう、と思いながら覗き込むと、半裸の少女の球体関節人形が、妖しく淫靡にこちらを覗き込んできた。お人形に興味はないが、その奇妙な目線には惹かれたかもしれない。 「……」 気が付くと、響はチラシの一枚を手に取っていた。
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