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インターネットで調べると、確かに、椿が師事している三浦氷雨は、その世界では大御所作家だった。何しろ、作品は一体百万単位で売買取引され、国内外のセレブにも顧客は多い。
「…凄い人の見習いなんだな…」
作品の評価を読んでいくと、本物と見間違うばかりに鮮烈でグロテスクで、でも妖しい魅力の関節球体人形は、全くの素人である響でさえ惹かれる作品ばかりだった。
休憩室では、相変わらず同僚の遠藤が三浦氷雨の作品の魅力について延々と語っていた。
「…だから私、三浦先生のトークショーに参加できるのが幸せで…」
「……」
仕事が終わり、ロッカールームから出ると、ちょうど遠藤と鉢合わせになった。
「お疲れ様です…」
帰り支度を整えた遠藤の腕を、響はとっさに捕まえた。
「え…」
「遠藤さん、ちょっと聞いてもいいですか」
「え?」
そもそも、響と遠藤は部署が違う。仕事中も大して話をしないのはそのせいだったのだが、今は違う。
「三浦先生のトークショー、お一人で参加する予定なんですか」
「え、ええ…」
「おれも、連れて行ってもらう事って出来ますか?」
「ええ?京堂君、球体関節人形に興味なんか…」
「実は友達に見せてもらって興味が出て…」
「そうなの。でもごめんなさいね、トークショーの参加券は一人分しか無いのよ。一緒には連れて行けないし、勿論譲れないわ」
「…そうですねよ。急に申し訳ございませんでした」
「いいのよ。お疲れ様、また明日ね」
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