愛しのポメラニアン

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「わー……気分いい」  ポメラニアン・ロスを味わった次の日、多摩は市営公園に足を運んだ。スーツでお弁当を持って公園のベンチを陣取る女性はそう多くないが、特別咎められることでもない。  親子連れで賑わっているエリアは遠慮することにして、奥まった場所にぽつんと置かれているベンチに座る。湖の周りを一周している道に沿うような配置になっており、適度な解放感と木々との近さのバランスがいい。ベンチは木製で、オフィスのデスクチェアと車のシートに慣れた多摩には、硬い感触が新鮮だった。長く座っていたら体を痛めそうだが、小一時間のランチにはちょうどいい。弁当箱を開けると、お弁当特有の篭ったような食べ物の匂いが広がり、食欲を刺激してから風に溶けた。  今日のおかずは鶏のレモン煮、きゅうりとちくわの和え物の二品だ。とはいえ昨日の夕食を多めに作って持ってきただけではあるが。自分で作った料理は、やはり自分好みの味になるのでいい。  さっぱりとしたレモンの風味を楽しんでいると、ふいに犬の鳴き声が聞こえた。きゃんきゃんと甲高い声からするに、小柄な犬種らしい。お散歩かなあ、とのんびり鳴き声を聞いていると、飼い主らしき女の子の声も聞こえてきた。 「あっ、待って、ちょっと、だめ!だめだってば!!待って!!」  犬の元気な鳴き声に、切迫した声と、ぱたぱたと急ぐ足音が混じる。思いのほか穏やかではなさそうだ。辺りを見回すと、小さな毛玉が多摩のいる方向に駆けてくるのが見えた。捕まえられるかな、と腰を浮かせた多摩は、ベンチの前の舗装された道をどんどん走ってくる犬を見て驚いた。
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