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「あれ!?あの子!?」
黒、白、茶色が入り混じるふわふわの顔。茶色の細くて元気な前脚。黒くて大きいつぶらな瞳。ポメラニアンには珍しくもないことといってはそれまでだが、それにしても多摩がペットショップで見ていたあの子にそっくりなのだ。
多摩が中腰のまま固まっていると、通り過ぎる勢いで走っていた犬とふと目が合った。きゃん、と鳴いて進路を変更し、多摩の足元に寄ってくる。試しに、ショーケース越しにしていたようにパチンと指を鳴らしてみると、犬は元気に飛び跳ねた。こんなところまで一緒だ。
「ひょっとして……本当にあの子?」
犬は走り出そうとはせず、多摩をじっと見つめている。多摩がそっと手を伸ばすと、「すみませぇん」と女の子が追いついてきた。
「はあ……うっかりリードを離しちゃって……はあ……」
背を丸め、荒く息をしながらふらふらと歩み寄ってきたのは、十代半ばといった風の少女だった。髪は地毛らしき黒だが、薄く化粧はしているようだ。高校生くらいだろうか。
地に引きずっていたリードをそっと拾い上げて
「はい。大丈夫?」
と渡すと、少女は
「ありがとうございます」
と息をついて笑顔になった。あ、可愛いな、と直感的に思った多摩が微笑むと、少女は安心したようで、しゃがみこんで犬を撫でた。
「飼い始めたばっかりで、なかなかうまくお散歩できなくて。すぐ逃げられちゃうんです」
そうなんだ、と相槌を打つ多摩に「そうなんです〜」と苦笑すると、少女は犬を抱き上げた。
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