愛しのポメラニアン

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 次の日、多摩は会社の会議室で弁当を広げた。朝炊き上がった白米の横に、仕切りを挟んできゅうりと蒸し鶏の中華サラダが一面に広がっている。昨日に引き続ききゅうりと鶏肉ばかりになってしまうが、あまりがっつりと食べる気力もないので仕方がない。ささみ肉、健康にも良いし。  手を合わせて食べ始めると、タイミング良くドアが開いた。 「あれっ」  多摩が慌てて入口のほうを見ると、同期の佐々木奈緒と目が合う。奈緒も多摩の顔を見ると、ほっとしたように表情を和らげた。 「なんだ、多摩ちゃんかー。上司かと思ってびっくりしちゃった」 「お疲れ様―。ひょっとしてこれから会議室、使う?」 「あ、ううん。私達もお昼ご飯食べようと思ってきただけ」  私達、という言葉に奈緒の後ろに立っている男性社員に目を向けると、あまり話したことはないが、彼も同期社員だった。たしか中根悠斗、と名前を思い出したところで、はっと社内の噂を思い出す。たしか中根くんが奈緒ちゃんのこと狙ってて猛アピールしてるとか、云々。多摩が 「えっと……邪魔?」 と中根に聞くと、彼は目を瞬かせた。 「え?いえ。そんなことないですよ」 「そうなの?」  遠慮した様子もなく否定され、多摩は肩透かしを食らった気分になった。しかしやっぱりお邪魔なのでは、と奈緒を見ると、奈緒は焦ったように手を大きく振った。 「ちょっと多摩ちゃん、勘違いしてるって!そういうのじゃないから!」  奈緒のほうは、その言葉に反して耳をぱあっと赤らめている。ファンデーションに隠れて頬が上気しているかは分からないが、決して平静ではなさそうな雰囲気だ。中根を見ると、彼のほうは曖昧に笑っている。あ、これややこしいやつだ、と多摩は直感した。
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