平生の憂鬱

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平生の憂鬱

昼間。 父の運転する車に乗っていると、百メートルほど前方、道路上に人影の飛び出してくるのが見えた。 人影は車の進路上に立ち止まり、動こうとはしない気配だった。 「なんだ」いぶかしげな父の声に、僕は「さあ」と答える。 速度を落としはじめた車は緩やかに対象へと接近していく。 徐々に助手席の僕にも人影の全体像が窺え、ヘルメットを被ったその人物が赤い旗を振っていること、僕たちに停止を促しているらしいことが確かに分かるようになる。 車はさらに速度を緩めた後、僕の目には警察官と映る人物の前で停止した。 警察官は旗を下ろすなり運転席へと歩いてきて、窓を下げた父に向かい、しわがれた声で言った。 「あのね、速度違反ですう。なので、こちらに車を、移動させてもらえませんかあ」
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