平生の憂鬱

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警察官の指示に従い、車は国道から外れた細道に進路を変える。 細道にはすでに何台かの車が見受けられ、おそらくは僕らと同じ速度違反で捕まったものと思われた。 車の何台かには警察官が応対し、なかには身振り手振りで説明している警察官もいた。 そうした光景を眺めながら待っていると、僕らの車にも警察官が現れ、軽く頭を下げる。 父がおざなりに会釈すると、若い男性警察官は咳払いをした後、高く澄んだ声で言った。 「すみません、速度違反なんでえ。違反キップにサイン、あそこでお願いしますねえ」 警察官が背後を指差し、促した先には長机がある。 警察官の何名かが等間隔に座り、その前では何人かの人々が椅子に腰掛けてサインをしていた。 いくつもの丸まった背筋が、どこか物々しい雰囲気を漂わせていた。 ……父も、あの集合に加わるのか。違反者の、集合に……。 助手席からの不穏な景色に僕がそう思っていた最中、父が口を開いた。 それは父らしからぬ、不機嫌さが如実に表れた声だった。 「いや、それなんですがね……私、速度違反はしていないと思うのですが。普段から飛ばすことをしませんし、それにこの道路、制限速度は五十キロですよね? 少なくとも私、六十キロ以上出した覚えはありませんが」
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