その程度の光

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 冬休み前最後の土曜日、私は自転車で、隣町にある先生の自宅の書道教室に行った。小さいけれど、格式のありそうな和風の家で、縁側のついた六畳くらいの部屋が教室になっていた。  生徒はお年寄りばかりで、土曜の九時から三時までなら、いつ来ていつ帰ってもいいらしい。  私は先生と手分けをして、小学校のボランティアの手本を書いた。奇数の学年を先生が、偶数の学年を私が担当した。  最初に二年生の「あおぞら」を書いて見せると、先生は例のごとく「いいんじゃねーの」とだけ言った。その「あおぞら」を、先生の百倍くらいの言葉をつくしてほめちぎってくれたおじいさんが帰ると、教室には先生と私の二人だけになった。  次に六年生の「信頼の絆」を書いて見せると、先生は笑い出した。 「だめですか」 「いや、悪くねぇよ。ただ、お前が『信頼の絆』を信じてねぇのがまるわかりだなって」  私もつられて笑いながら、信じてないので、と言った。  
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