その程度の光

4/32
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 書道部は週に一度集まって、決められた作品を書くだけの楽な部活だった。  部活の間、先生は教壇ではなく、窓際のいちばん前の席を後ろ向きにして、いつもそこに座っていた。それが、先生が手本を書き、部員の作品を講評する場所だった。講評といっても、先生は誰が何を書いても、「いいんじゃねーの」というコメントしかしない。口数の少ない人だった。  だから七月の最初の部活で、先生が教壇に立って話し始めたときは、少し驚いた。 「夏休み、東小で書道体験やんだって。週一で。この部から、ボランティアで教える奴出してほしいって言われてんだけど、やる奴いる?」  部員たちが目を伏せて、何も答えないのを見ると、先生はあっさり引き下がった。 「まぁいいや。俺一人行きゃあ何とかなるわ。ま、万が一やりたくなった奴いたらあとで呼んで」   そして先生はいつもどおり、窓際の席で手本を書きはじめた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!