その程度の光

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「お前、来週からもう来なくてもいいぞ」  帰りのバス停に並んでいると、先生に突然そう言われた。  無愛想なのは知ったことだけれど、さすがに頭に来た。 「どうしてですか」 「ガキの字はでかけりゃいいとか、そういう考え方は、俺は大っ嫌いだ」 「私もです」  たしかに私は、直しのとき、文字は大きく書きましょうとか、はらいと止めはしっかり区別しましょうとか、その程度のコメントしかしなかった。  他の部分はさておき、字が大きければ、とりあえずほめておいた。  全部、あの女性教師のレベルに合わせるためだ。  そうしないと、角が立つと思った。  そして、田舎の人たちはそういう「角が立つ」ことをとても嫌う。 「角を立てねぇとか、そういう考えも俺は嫌いだね」 「私もです」  面倒だから角を立てなかっただけで、「角を立てない」こと自体は、別に全然、私の考え方じゃない。おばあちゃんに「そんなことをしたら角が立つでしょう」と言われるたびに、本当は、窮屈に感じて仕方がなかった。  風が吹いて、目の前の畑のひまわりが揺れる。  私たちは、同時に小さく笑った。  
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