序章

2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ゴーン。ゴーン。  ついに六時を知らせる鐘が鳴り響いた。 「さあ愚かなる人間どもよ。泣くがいい!叫ぶがいい!さぁわがしもべたちよ。街にはびこる人間どもを喰らい尽くせ!」  天から響いてくるこれは恐らくもののけの親玉の声。その声は低く、重く、そしておぞましい。僕の吐く息が口元を覆う手拭いを反射する。その熱が肌に触れると、心臓の音はさらに高鳴っていった。そのとき! 「キャーーーーーーーーーーッ!」  絹をも切り裂く悲鳴が四方八方から響き渡ってきた。黒いわらじが擦り切れんばかりの速さで僕は駆けていく。すると女子供が逃げまどう姿がそこにあった。僕が歩み寄るとそこには、口が裂け、目玉を大きく見開いた筋骨隆々の男が女子供を追いかけまわしていた。男の顔面は蒼白、口元は耳まで裂け、そこだけは真っ赤な血の色に染まっている。衣服はところどころ切り裂かれており、両腕でのこぎりのような刃物を握りしめている。僕は震える手をさやにかけ、刀を抜いた。 「おのれもののけめ!拙者が成敗致す。女どもから離れろ!」  僕はあらん限りの声を絞り出し、その男に向かって言い放った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!