序章

3/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ウウウウウウウウウ……」  その男はそう低い声を上げながら僕のもとへと迫ってくる。しかし僕は闘わなくてはならない。男が僕に向かって武器を向ける。武器からはギュイーンギュイーンとけたたましい音が鳴り響いた。怖くないかと言われれば嘘になる。でも、退くわけにはいかない。こうしている間にも、女の悲鳴がいたるとことから聞こえてきているのだ。僕は汗ばむ右手を背中に伸ばし、刀を抜いた。竹刀の素振りは普段の稽古で十分すぎるほどやり込んでいる。この程度の刀を使いこなすなどどうっていうことはないし、たとえ相手がどんな敵であろうと大丈夫!僕はそう自分自身に言い聞かせた。 「来い!」  僕は腹からそう声を張り上げ、男を精いっぱい睨みつける。すると男の口角が少しだけ上がった。 「グゥゥゥゥゥゥ……」  男は押し殺したような声を上げる。僕の背より三十センチ……いや、五十センチは高い大男だ。僕に見下すような視線を投げつけながら、大男は再びウイーンウイーンと武器を鳴らしながら僕に向かって襲い掛かってきた。 「喰らえ!」  僕は大男の胴を目がけてとびかかる。すると大男はその手にとった武器を下段に構え、僕の胴打ちを防いだ。 「やるな!」 「グルルル……」  男のギラギラした視線が僕を射すくめる。でも僕だって負けることは許されない。辺りには逃げまどっていた女子供が戻ってきているようだ。幾多の視線がこの死闘を見守っているのをひしひしと感じる。  たくさんの人々の未来が、僕のこと一振りの刀にゆだねられているのだ。  男の顔を見上げて視線をそらさず、僕は刀を持つ震える手にさらに力を込めた。するとそのときだった。  トントンッ!  背中から僕の肩が不意に叩かれた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!