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迷子センターから出てしばらくして、僕は口を開いた。
「あの、ごめんなさい」
「本当に心配したんだから!どうしてこんなことしたの?」
お母さんは僕にそう問いかける。
「だって、刀は悪い奴をやっつけるためにあるんでしょ?悪い奴をやっつけたかったんだ。ほら、みんな悲鳴あげてたし」
僕はそう答えた。
「それは……」
「それは違うな」
お母さんの声をお父さんが遮った。
「お前に剣道を習わせているのは自分を磨くためだ。誰かをやっつけるためではない。だからこれからは剣道をケンカには持ち込まないこと。いいね?」
お父さんの眼差しを前に、僕は無言で頷いた。
「お父さん……」
「たまにはマジメなことも言うんだよ。僕だってな。君が言いたかったのも、こういうことだろ?」
お父さんは優しくもキリッとした顔でそうお母さんに語りかけた。するとお母さんも、優しそうな目で口を開く。
「折角のお話だけど、この格好で言ってもあんまり説得力ないと思うなぁ」
お母さんはお父さんの頭からつま先までゆっくりと眺めながらそう呟いた。
「だってこの姿、どう見ても忍者好きのコスプレおじさんにしか見えないもんねぇ」
お父さんの顔が一気に曇った。
「それにあなた、キメ顔で『君が言いたかったのも、こういうことだろ?』とか言ってたけど、違うから。私が言いたかったのは、キャーキャー言ってる人達は結局楽しんでるんだよってことだけ。剣の道とか、自分を磨くとか、知らないから」
お父さんが完全に固まった。
「大丈夫?お父さん」
僕はそう尋ねる。しかし……返事がない。これじゃまるでただのしかばねのようだ。
こうしてお母さんはお父さんをノックアウトしてしまった。
「もっと強くなりたいな」
もののけも真っ青なお母さんの強さを見て、僕はふと、そう思った。
【終】
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