月明かりの秘密

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月明かりの秘密

 兄、小学六年生。僕、小学一年生。  家では、子供部屋で机を並べて勉強し、布団を並べて毎日寝ている。  今日は、中秋の名月。  そろそろ寝ようと寝床に入ると、隣の兄が話し掛けて来た。 「おまえも一年生になったから、大事なことを言っておくけど……」 「うん」 「絶対ッ! ぜぇ~ったいにッ! 外で、誰にも言うなよッ!」 「うん。で、何々~?」 「実は……、うちのママ……、狼なんだぜ」 「んっ? え、えぇーーーッッッ!!!」 「シーーーッ! 声デカイよッ!」 「ごめんごめん! い、い、今でしょ? ……じゃなくて、うそでしょ?」 「うそだと思うんだったら、今日、お月見の日だろ?」 「う、うん……」 「今晩、変身する日だから、夜中に、こっそり、ベランダへ、見に行ってみなって! 月明かりの下で、うちのママ、狼なんだぜ」 「もう~……、絶対、うそだ~ッ!」 「ママが狼に変身する姿を、その横でパパが、『ヒッヒッヒ……』って、笑いながら見てるんだぜ~。怖いぞ~~~」 「もう~、お兄ちゃん、怖いって! もう~!」 「お兄ちゃん、眠たいから、もう、寝るわな~。おやすみ~……Zzz」 「お、お、おやすみ~……」  僕は、絶対うそだと思いながらも、気になって気になって、眠れなくなった。 ー カチャッ! ー  夜中、両親の部屋のドアが開いた。そして、しばらくすると、 ー ガラガラガラガラ~ ー  ベランダのサッシの戸が開く音。  今日の夜空は天気もいい。お月さんも煌々(こうこう)と光っているはずだ。  怖いので、兄に付いて来て欲しかったが、グ~グ~と気持ち良さそうに寝ている。起こすのも悪いので、仕方なく、勇気をふりしぼって、こっそり、そろりそろりと、ベランダへと近づいた。 ー ヌチャッ、ヌチャッ……、クチャッ、クチャッ…… ー  ベランダの方から、何かを食べている音が聞こえて来る。まさか、もう、狼に変身して、(けもの)や人間を、そのまま食ってるとかじゃないよな~……?  僕は、ドキドキッ! ドキドキッ! もう、心臓が口から飛び出そうなくらい、気持ち悪くなりながら、そろ~り、リビングの扉を~……、開けた。 ー キィ~…… ー  シ~ンッ……、とした夜中に、運悪く、扉を開ける音が鳴り響いたッ! 「誰ッ! 誰なのッ! そこにいるのはッ!」  ママにバレてしまった! 僕は、緊張と恐怖のあまり、ママを見ることができず、 「ハ、ハイッ!」  と、目を閉じたまま、その場に直立不動! 「オシッコ?」  ママに(たず)ねられた。 「い……、いえ……、違います」 「だったら、何時だと思ってるのッ! 早く寝なさいッ!」 「ハ、ハイッ!」  僕は、少しだけ目を開けて、様子を伺った。すると、パパとママは、ベランダで、月明かりの下、お月見団子を食べながら、お酒を飲んでいた様子だった。  ママは……、お……、狼に変身しておらず、ただ僕は怒られただけ。パパは、ママの横で、ニコニコ笑っていただけだった。  僕は、怒られたものの、狼に変身していなかったママに安心し、寝床へと急いだ。  結局、僕は、ママから大雷(おおかみなり)を落とされただけだった。  ……って、んっ?  『オオカミナリ』?   兄が言っていた、『月明かりの下で、うちのママ、狼なんだぜ……』って、もしかして、言い換えれば……、 『月明かりの下で、うちのママ、狼なり』?!  出たッ!   クゥ~~~ッッッ!!! (だま)されたッ! なぞなぞ好きの兄に騙されたッ!  子供部屋の扉を開けると、兄は、声が()れないように、布団を頭から(かぶ)って丸まりながら、モーレツに爆笑していたッ!
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