2140人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
16話
「ん…」
目を開けると、暗闇の中、天井に光る星空が見える。
……私、いつの間にか寝ちゃってたんだな。
何時なのか確認しようと体を起こそうとすると、それを阻むかのように自分の体に何かが巻き付いている。
その正体を探ると、咲夜さんの腕だった。
隣を見ると、スヤスヤと眠る彼の姿。
「眠る時は、眼鏡外すんだ…」
抱かれている時は、それどころじゃなくて気付かなかったけど、確か眼鏡してたよね。
眼鏡を外している顔も、寝ている姿も見るのは初めて。
気を許している感じがすごく嬉しくて、思わず彼の顔に手を伸ばすと、薄っすらと目が開いた。
「んん…陽花里さん…?目、覚めちゃいましたか…?」
どこかまだぼんやりとした表情で尋ねる彼は、年上だけどあどけなくて可愛い。
「ふふっ…咲夜さん、可愛い。」
「…陽花里さんの方が、可愛いよ?」
寝起きのふわふわした表情で笑う咲夜さんに、胸がぎゅーっと掴まれたようなたまらない気持ちになって、思わず自分から唇を重ねる。
「ん…陽花里さんからしてくれるなんて、嬉しいです。」
自分からキスをしたことなんて、今までほとんど経験がなかったのに。
大胆な行動に、今更恥ずかしくなって布団に潜り込もうとしたけど、彼の手がそうはさせてくれなかった。
「逃がしませんよ。」
「咲夜さん、少し意地悪です…」
「意地悪してるつもりはありませんよ。どんな陽花里さんでも見ていたいだけです。…ところで、喉乾いてませんか?」
そういえば、少し声が出しにくいような…
「僕に余裕が無かったから、無理させちゃいましたしね。お水持ってくるので、少し待ってて下さい。」
そう言って、私に巻き付いていた腕が離れて行くと、急に寒さを感じて、少し寂しい。
ちょっと離れるだけなのに。
自分の思考が甘くなっていることに気付いて、恥ずかしくなってしまう。
「陽花里さん、お水持ってきましたよ。」
「ありがとうございます。」
起き上がってコップを受け取り喉を潤す。
うん、少しスッキリした。
「そういえば、プラネタリウムそのままなんですね。」
「ええ。まだ、陽花里さんに見せてないものがあったので。」
見せてないもの?
「これ、実は流星を流すことも出来るんですよ。」
「え、そうなんですか?」
「ええ。ちょっとやってみますね。」
咲夜さんが球体を少し触ると、天井に流れ星が流れ始める。
「わ~…綺麗。」
実際に見るのには劣るけど、十分綺麗で感動する。
「…その顔、初めて流れ星を見た時にもしてましたね。」
「え?」
「僕たちが出会った時ですよ。陽花里さん、あの時初めて流れ星を見たって言ってたでしょう?」
そう。確かに、咲夜さんと出会った日、私は初めて流れ星を見た。
「よく覚えてましたね。」
「忘れるわけないですよ。だって僕は、陽花里さんのあの表情に惹かれたんですから。」
「そうなんですか…?」
「ええ。すごく嬉しそうに、楽しそうに笑うあなたに、僕は一瞬で恋に落ちたんです。可愛いなって。もっとこの人の事知りたいなって思って。必死でした。」
全然気づかなかった。
咲夜さん、いつも変わらない感じだったのに。
「あんなに女性に対して必死になったのは、初めてだったかもしれません。だから、今すごく幸せです。」
「…私も、すごく幸せな気持ちです。」
「良かった。…陽花里さん、あの…実は、伝えたいことが、もう一つあるんです。」
伝えたい事?
何だろう。
急に真剣な表情になった彼に、少し緊張する。
「…僕と、結婚を前提として、お付き合いしてもらえませんか?」
「え…?」
「陽花里さんと、ただお付き合いするというだけじゃ、嫌だと思う自分がいるんです。先の事なんてどうなるか分からないし、結婚なんてまだ考えられないかもしれませんが…」
「咲夜さん…」
「あなたと出会ってから、陽花里さんが僕たちの子供を抱いて、幸せそうに隣で笑っている姿が自然と想像出来るんです。不思議でしょう?でもこれはきっと、僕には陽花里さんが運命の人って事なんだなって。」
咲夜さんの言葉に、単純に驚いた。
彼が、私との事をそこまで考えていたことに。
でも、すごく嬉しい。
「もちろん、今後お付き合いする中で、結婚は嫌だという事であれば、強要はしません。でも…僕は、陽花里さんと結婚したい。あなたが、他の誰かの隣で幸せになる姿は想像したくない。隣には僕が居たいんです。誰にも、渡したくない。」
ちょっと辛そうな表情をした後、ぎゅうっと抱きしめられる。
何を想像したのかは、聞かなくても何となく分かった。
私も、咲夜さんの隣に他の女性がいるのは、もう二度と想像したくないし、見たくない。
「…私でいいんですか?」
「陽花里さんがいいんです。」
「分かりました。でも、お願いがあります。」
「何でしょう?」
「…私以外の女性に、あまり優しくしないでください。」
何て酷い奴だって思われるかもしれない。
だけど、私も咲夜さんを、誰にも取られたくない。
だから、勘違いさせるような優しさは、他の人には見せないで欲しい。
「陽花里さん以外には、優しくなんてないですよ。」
「そんなことないです。だって私の本音は、どんな理由でも、車に他の女性を乗せて欲しくない、だから。……呆れました?」
「全然。そんなにヤキモチ焼いてもらってたんだなって、逆に嬉しいですよ。」
その言葉に、ホッとする。
こんな嫉妬、醜いだけだと思ってたから。
「咲夜さんのいい所だって分かってはいるんです。私もその優しさに惹かれたから。でも、他の女性にも優し過ぎるのは…」
「分かってます。大丈夫。安心してください。僕が本当に優しくするのは陽花里さんだけだから。車にも、もう乗せませんよ。だって恋人がいるんだから。」
「…我が儘でごめんなさい。」
咲夜さんに、優しくない人になってほしいわけじゃないけど…
それでも、自分と同じように優しくされている女性がいるのは、イヤだと思ってしまう。
心の狭さに自分でも嫌になるけど、それでも咲夜さんは、大丈夫と言ってくれるから安心する。
「咲夜さん。もう一つ、約束してほしい事があります。」
「何ですか?」
「……今度、ちゃんとプロポーズ、してください。」
「え…?」
意味が正確に伝わったと、抱きしめる腕の力が強くなったことで分かった。
「陽花里さん…ありがとう。ちゃんと準備して、必ずプロポーズするから、待っててくださいね。」
「はいっ…。」
どちらからともなく、唇を触れ合わせる。
近い将来必ず訪れる幸せな瞬間を思い浮かべながら、ベッドに沈んだ私達は、再びお互いの熱と思いを交わし合った。
最初のコメントを投稿しよう!