16話

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16話

「ん…」 目を開けると、暗闇の中、天井に光る星空が見える。 ……私、いつの間にか寝ちゃってたんだな。 何時なのか確認しようと体を起こそうとすると、それを阻むかのように自分の体に何かが巻き付いている。 その正体を探ると、咲夜さんの腕だった。 隣を見ると、スヤスヤと眠る彼の姿。 「眠る時は、眼鏡外すんだ…」 抱かれている時は、それどころじゃなくて気付かなかったけど、確か眼鏡してたよね。 眼鏡を外している顔も、寝ている姿も見るのは初めて。 気を許している感じがすごく嬉しくて、思わず彼の顔に手を伸ばすと、薄っすらと目が開いた。 「んん…陽花里さん…?目、覚めちゃいましたか…?」 どこかまだぼんやりとした表情で尋ねる彼は、年上だけどあどけなくて可愛い。 「ふふっ…咲夜さん、可愛い。」 「…陽花里さんの方が、可愛いよ?」 寝起きのふわふわした表情で笑う咲夜さんに、胸がぎゅーっと掴まれたようなたまらない気持ちになって、思わず自分から唇を重ねる。 「ん…陽花里さんからしてくれるなんて、嬉しいです。」 自分からキスをしたことなんて、今までほとんど経験がなかったのに。 大胆な行動に、今更恥ずかしくなって布団に潜り込もうとしたけど、彼の手がそうはさせてくれなかった。 「逃がしませんよ。」 「咲夜さん、少し意地悪です…」 「意地悪してるつもりはありませんよ。どんな陽花里さんでも見ていたいだけです。…ところで、喉乾いてませんか?」 そういえば、少し声が出しにくいような… 「僕に余裕が無かったから、無理させちゃいましたしね。お水持ってくるので、少し待ってて下さい。」 そう言って、私に巻き付いていた腕が離れて行くと、急に寒さを感じて、少し寂しい。 ちょっと離れるだけなのに。 自分の思考が甘くなっていることに気付いて、恥ずかしくなってしまう。 「陽花里さん、お水持ってきましたよ。」 「ありがとうございます。」 起き上がってコップを受け取り喉を潤す。 うん、少しスッキリした。 「そういえば、プラネタリウムそのままなんですね。」 「ええ。まだ、陽花里さんに見せてないものがあったので。」 見せてないもの? 「これ、実は流星を流すことも出来るんですよ。」 「え、そうなんですか?」 「ええ。ちょっとやってみますね。」 咲夜さんが球体を少し触ると、天井に流れ星が流れ始める。 「わ~…綺麗。」 実際に見るのには劣るけど、十分綺麗で感動する。 「…その顔、初めて流れ星を見た時にもしてましたね。」 「え?」 「僕たちが出会った時ですよ。陽花里さん、あの時初めて流れ星を見たって言ってたでしょう?」 そう。確かに、咲夜さんと出会った日、私は初めて流れ星を見た。 「よく覚えてましたね。」 「忘れるわけないですよ。だって僕は、陽花里さんのあの表情に惹かれたんですから。」 「そうなんですか…?」 「ええ。すごく嬉しそうに、楽しそうに笑うあなたに、僕は一瞬で恋に落ちたんです。可愛いなって。もっとこの人の事知りたいなって思って。必死でした。」 全然気づかなかった。 咲夜さん、いつも変わらない感じだったのに。 「あんなに女性に対して必死になったのは、初めてだったかもしれません。だから、今すごく幸せです。」 「…私も、すごく幸せな気持ちです。」 「良かった。…陽花里さん、あの…実は、伝えたいことが、もう一つあるんです。」 伝えたい事? 何だろう。 急に真剣な表情になった彼に、少し緊張する。 「…僕と、結婚を前提として、お付き合いしてもらえませんか?」 「え…?」 「陽花里さんと、ただお付き合いするというだけじゃ、嫌だと思う自分がいるんです。先の事なんてどうなるか分からないし、結婚なんてまだ考えられないかもしれませんが…」 「咲夜さん…」 「あなたと出会ってから、陽花里さんが僕たちの子供を抱いて、幸せそうに隣で笑っている姿が自然と想像出来るんです。不思議でしょう?でもこれはきっと、僕には陽花里さんが運命の人って事なんだなって。」 咲夜さんの言葉に、単純に驚いた。 彼が、私との事をそこまで考えていたことに。 でも、すごく嬉しい。 「もちろん、今後お付き合いする中で、結婚は嫌だという事であれば、強要はしません。でも…僕は、陽花里さんと結婚したい。あなたが、他の誰かの隣で幸せになる姿は想像したくない。隣には僕が居たいんです。誰にも、渡したくない。」 ちょっと辛そうな表情をした後、ぎゅうっと抱きしめられる。 何を想像したのかは、聞かなくても何となく分かった。 私も、咲夜さんの隣に他の女性がいるのは、もう二度と想像したくないし、見たくない。 「…私でいいんですか?」 「陽花里さんがいいんです。」 「分かりました。でも、お願いがあります。」 「何でしょう?」 「…私以外の女性に、あまり優しくしないでください。」 何て酷い奴だって思われるかもしれない。 だけど、私も咲夜さんを、誰にも取られたくない。 だから、勘違いさせるような優しさは、他の人には見せないで欲しい。 「陽花里さん以外には、優しくなんてないですよ。」 「そんなことないです。だって私の本音は、どんな理由でも、車に他の女性を乗せて欲しくない、だから。……呆れました?」 「全然。そんなにヤキモチ焼いてもらってたんだなって、逆に嬉しいですよ。」 その言葉に、ホッとする。 こんな嫉妬、醜いだけだと思ってたから。 「咲夜さんのいい所だって分かってはいるんです。私もその優しさに惹かれたから。でも、他の女性にも優し過ぎるのは…」 「分かってます。大丈夫。安心してください。僕が本当に優しくするのは陽花里さんだけだから。車にも、もう乗せませんよ。だって恋人がいるんだから。」 「…我が儘でごめんなさい。」 咲夜さんに、優しくない人になってほしいわけじゃないけど… それでも、自分と同じように優しくされている女性がいるのは、イヤだと思ってしまう。 心の狭さに自分でも嫌になるけど、それでも咲夜さんは、大丈夫と言ってくれるから安心する。 「咲夜さん。もう一つ、約束してほしい事があります。」 「何ですか?」 「……今度、ちゃんとプロポーズ、してください。」 「え…?」 意味が正確に伝わったと、抱きしめる腕の力が強くなったことで分かった。 「陽花里さん…ありがとう。ちゃんと準備して、必ずプロポーズするから、待っててくださいね。」 「はいっ…。」 どちらからともなく、唇を触れ合わせる。 近い将来必ず訪れる幸せな瞬間を思い浮かべながら、ベッドに沈んだ私達は、再びお互いの熱と思いを交わし合った。
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