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3話
何個も何個も流れ星が流れている時間、私達は殆ど言葉もなく空を見ていた。
「綺麗…」
一瞬で消えていく星達。
その儚さに惹きつけられて、夢中で眺めてしまう。
「流れ星って、本当は星じゃないって知ってますか?」
「え?」
突然の彼からの質問に、思わずそちらを見ると、空を見上げたまま答えが返ってきた。
「流れ星は、本当は星じゃなくて、所謂隕石なんですよ。」
「隕石?」
「そう、隕石。だから本当は、いつも見ている星とは違うんですよ。不思議ですよね。」
彼の言葉に、再び夜空を見上げた。
流れ星が隕石って事は、今キラキラ輝いている星は、一体何なんだろう。
理科の授業でやったのかもしれないけど…残念ながら、私は理数系は苦手だった。
しかも、星の事を今日までそれほど考えたこともなかったし、興味もあまり持たなかったから。
「じゃあ…ここに見えてる星って何なんでしょう?」
「星は、簡単に言えば、太陽と同じ恒星と言われるものですね。自分で光る星だから、こうして見えるんですよ。」
「へー。なるほど。」
「しかも、今見えている星の光は、リアルタイムではないんですよ。」
「どういうことですか?」
「光速とか光年って聞いたことありませんか?光にも、進むスピードがあるんですよ。だから、地球から遠い星達の光が届くのにはタイムラグがあるんです。何万年も昔の星の光って事もあるんですよ。」
「何万年も昔…」
そういえば、何万光年って言葉、歌か何かで聞いたことあるかも。
すごいな。この星の光は、今現在光ってるわけじゃなくて、昔の光なんだ。
星空を夢中で眺めていると、隣から焦ったような声が聞こえてきた。
「ああ…またやってしまった…」
「どうかしましたか?」
「いえ…あの、すみません。ベラベラと喋ってしまって…あなたが聞いてくれるのが嬉しくてつい…いつもこれで失敗するのに。」
「失敗?」
「お恥ずかしい話ですけど、僕があまりにも星の話をし過ぎるもんだから、女性には、つまらない、興味ないって言われちゃう事が多くて。おかげで、独り身なんです。」
なるほど。
よっぽどそう言われたことが多かったのかな。
「大丈夫ですよ。私は教えてもらえて嬉しかったですし、一緒に星を見てるのに、つまらない、興味ない、なんて言いません。」
「そう、ですか?それなら、良かった…」
「でも、本当に詳しいんですね。そういうお仕事されてるんですか?」
「プラネタリウムで働いてはいますけど…ほとんど趣味ですね。」
「お好きなんですね、星が。」
「ええ。だって、不思議でしょう?一体どうなってるんだろうって、ワクワクしてしまうんですよ。」
そう話す彼は、少年の様な笑顔で、本当に好きな事が伝わってくる。
「そういえば、もうこんな時間ですけど、お家に帰らなくて心配されませんか?」
「え?…ああ、大丈夫です。私も独り身ですから。」
「お家はこの近くなんですか?近くなら送っていきますよ。」
「いいえ、ここは会社の近くで、電車通勤なん…あ!!」
星に夢中ですっかり忘れてた。
終電、もう無いじゃない!
どうするのよ、私…
「あの…もしかして、ですけど、終電…」
「はい…終電、逃しちゃいました。」
「すみません。僕がもっと気を付けてれば良かったんですが…」
「いえいえ、忘れてた私が悪いんですよ。気にしないでください。」
仕方がないから、始発まではここで何とかして過ごすしかないか。
星でも見てれば、その内時間は過ぎる…よね?
「…もしかして、ここで過ごすおつもりですか?」
「はい。始発まではここで、星でも見てようかなって。」
「なら、僕も一緒にいますよ。」
「え?大丈夫ですよ、気にせずに帰ってもらっても…」
「女性をこんな所に一人で置いていくわけにはいきませんよ。僕の家は近くですけど、あなたは嫌でしょう?今日出会ったばかりの男の家に行くのは。」
「それは、まあ…」
「でしょう?車で送っていってもいいんですけど、家を知られるのも嫌でしょうから、せめて一緒にいます。何かあってからじゃ大変ですし。」
「でも…」
その優しさに、私は甘えてしまっていいのだろうか。
「僕がそうしたいんです。星もまだまだ見たいですしね。だから、気にしないでください。」
「…ありがとう、ございます。」
彼の優しさが、すごく嬉しいのに、何故か苦しかった。
それはきっと、今朝の夢のせい。
あの人を、あの事を、思い出したから
いつまでも気にしてるなんて、って自分でも思ってる。
失恋なんて、今までだってしてきたのに。
だけど、どうしてか消えてなくならない。
まるで、呪縛のよう。
”流れ星に3回願い事を~”
急に、好美さんの言っていたことを思い出した。
空には、まだ時々流れ星が流れてる。
願い事、か…
今の私の願いは、たった一つ。
「…もう、思い出したくない」
ただ、それだけ。
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