5話

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5話

家に帰った私は、お風呂に入ってベッドに潜り込んだ。 少し眠っていたとはいえ、ちゃんと寝ていない体は気怠い。 何気なくスマホを確認すると、メッセージが届いている。 開けてみると、月野さんからだった。 「無事にお家に着きましたか?」 その文面からも、彼の人となりが伝わってくる気がする。 「心配していただいてありがとうございます。もうお風呂にも入って、ベッドの中です。」 「それは良かったです。ゆっくり休んでくださいね。」 「月野さんこそ、お疲れだと思うので、ゆっくり休んでくださいね。」 「ありがとうございます。なんだかいい夢が見られそうです。」 「私もです。おやすみなさい。」 「おやすみなさい。」 そのメッセージを見たのを最後に、私の意識は途切れた。 『陽花里さん、流星群ですよ。』 月野さん…? 『ほら、見てください。あんなに沢山。陽花里さんは幸運ですね。』 月野さんが、すごく嬉しそうに笑っている。 その後ろでは、流れ星が流れ続けていて、とても綺麗。 『陽花里さん、…』 月野さん…?何言ってるのか、聞こえないよ… 笑顔の彼が、どんどん遠ざかっていく。 『ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。』 『いや!』 自分の大声に、パッと目を開けると、見慣れた天井が見えた。 「あ…夢、か。」 大声を出したのは、夢の中なのか現実なのか分からないけど、喉がカラカラに乾いている。 ベッドから降りて、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。 冷えた水が気持ちいい。 また、あの言葉。 もういい加減解放してほしい。 星に願っても、やっぱり効果なんてなかった。 でも、なんで私、月野さんの夢なんて… 夢の中でも見た、月野さんの笑顔が思い浮かぶ。 朝まで一緒にいたから、印象が強かったかな。 出会ったばかりの人を夢に見るなんて、初めてかもしれない。 「いい人だとは思うけど…」 あまり深入りしてはいけないと、私の中で警笛がなっている。 次に会ったら、きっともうそれっきりだろう。 だって会う理由がない。 彼の方だって、きっとすぐに忘れるはず。 もしかしたら、約束だって忘れてしまうかも。 それはそれで、いいのかもしれない。 そう思っていた。 だけど、数日後。 仕事を終えて、駅に向かって歩いていると、聞いたことのある声に呼び止められた。 「陽花里さん。今お帰りですか?」 「月野さん?」 「こんばんは。」 「こんばんは…月野さんも、仕事帰りですか?」 「いえ、僕は今から職場へ行くんですよ。あ、良かったら、陽花里さんも一緒に行きますか?」 「え?」 月野さんの職場って、確かプラネタリウムだよね。 「実は今日、月に2回の夜間投影の日なんです。良かったら見て行きませんか?」 「夜間投影?」 「はい。基本的には18時までしか開館してないんですけど、月に2回、20時から一度だけ投影するんです。」 そういうのって、すごく…カップルが多そう。 「家族で来られる方や、1人の方も多いんですよ。もちろん、カップルの方もいますけどね。」 私の考えていたことが聞こえたかのように説明してくれる。 どうして、分かっちゃうんだろう。 「当日参加でも、大丈夫なんですか?」 「ええ、もちろん。解説もあるので、分かりやすいと思いますよ。」 「じゃあ、見に行きたいです。」 「ぜひ。近いので、一緒に歩いて行きましょうか。」 彼に促されて、着いていく。 徒歩10分もかからない場所にあったプラネタリウム。 建物も丸い屋根になっていて、何だか可愛い。 「私、プラネタリウムに来たの、初めてです。」 「本当ですか?じゃあ、絶対楽しんでもらわないといけないですね。」 意気込む彼に、思わず笑ってしまった。 「僕はここで。帰り、駅まで送るので入り口で待っててくださいね。それじゃ、また後で。ゆっくり楽しんで。」 私の答えを聞かないまま、スタッフオンリーと書かれたドアに入っていってしまった。 また駅まで送ってもらうのは、申し訳ない。 でも、待っていてと言われたのに、待たずに帰るのも… どうしたらいいかな、と思いながら、チケットを購入して中に入ることにした。
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