ラミネート

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 そもそも何故〈アルノール公爵〉はパステル姫を拐ったのか。  その話は一旦置いておいて、姫が俺にこんな手紙を送ってくるのは何故か。  悪事や無礼といった文は無視するとして。助けてくれた俺に恋をしたらしいから『ちょっと変わったラブレター』と、考えるのが単純な答えだろうか?  モテる男は辛いって事だな。  ――――だが。そんな筈はないのだ。罠の匂いがプンプンしやがる。  それより俺にとって問題だったのは、パステル姫からの手紙がしっかりと俺に届いた事だった。  彼女が俺宛に手紙を書くという事は当然俺の家を知っている事が前提になる。  ――――これが大問題なのだ。  何故かと言うと、俺の家はラミネートの屋敷だからだ。  手紙は配達員の手からラミネートの入り口でもある洞窟の門番に渡されたものだった。  つまり彼女はラミネートの館に俺が居る事を確信していて送ってきているのだ。 「チッ! どこでしくじった!?」  ――――コンコン  部屋の扉がノックされた。ほんの少し間を置いて扉が開かれ。声が聞こえた。 「ラク様。大きな声が聞こえたようですが?」 「そんな大きな声は出していない。お前の耳が良すぎるんだろうよ、ルカ」  ドアからヒョッコリと顔を出した茶髪のショートヘアーの女性。  スラリと長身でスタイルが良く端整な顔立ちに猫目も相まって、一度目にした者の記憶に刷り込まれるような妖艶な容姿だ。  彼女は俺の侍従であり優秀な部下だ。  名前は〈ルカ〉という。  その頭からは犬の様な耳がピョコンと出ていて人間では無い事がわかる。事実、彼女は獣人と呼ばれる種族だ。  これで人間だったら彼女を放っておく男はいないだろうに…… 「なるほど、失礼いたしました。それでは……」  ルカがドアを閉めようとした時、俺は思いついた。 「まて、ルカ。ついでに一つ頼みたいんだ」 「……?」 「もう一度拐ってこい。あの、お姫様を……」
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