アルノールとラクとパステル

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 実は一ヶ月程前に姫を誘拐したのは俺だ。  と言っても、正確には俺の命令により動いたルカだが。  それがアルミル王国内で騒ぎになってから街の冒険者ギルドで何知らぬ顔をして俺自身が、拐われた姫の救出依頼を受けたのだ。  そして、自分の棲み家であるラミネートの家に侵入(帰宅)。俺の素性を知らないパステル姫を、俺は救出に来た冒険者を装ってアルミル王国に連れて帰ったわけだ。  ――――何故そんな事をしたのか。  簡単に言えば王国からの多額の報酬だ。  実際に、金貨5万枚という額は国家予算の3分の1にあたる額だった為予想以上だった。  だが、ラミネートの主であるアルノール公爵から取り返すと考えれば妥当な金額と言えなくもない。  金が欲しいなら最初から身代金の請求をすれば良いと思うだろうが、目的は金だけではなかった。  第二の目的として、俺が『英雄』になる事でアルミル王国内である程度の待遇を受けられる立場になる事。  そして、その為にはラミネートという『不可能な壁』を突破するのが一番早い。  うむ。最強の自作自演だ。  因みにラミネートのアルノール公爵とは俺の父親だ。 三年前から父親が病で床に伏せってしまい現在は息子の俺がラミネートの主となっているのだが。その事実は外部には知られていない。  そもそもアルノール公爵とは名ばかりで、俺の親父の正体は嘗て世界全ての海を牛耳っていた最強の海賊〈エンドル〉だった。  海賊と言っても、親父が狙うのは各国直属の軍艦や交易船に偏っていて普通の民間貨物船は殆んど狙わないという、一風変わった海賊だったのだが。  そして、アルノール公爵(親父)が海賊エンドルである証拠は何も残されていない。  だが、各国の上級貴族達の間では半ば確実視された話になっている。    普通の民からしたらアルノール公爵は姿も見せない変わり者でしかないので、巷ではその変わり者がパステル姫に興味を持って連れ去った……等と思われている。  そんな事の為にラゾンテが王位権限を振りかざしラミネートに戦争をふっかける訳にもいかないだろう。   だがラゾンテからして見れば相手は最強の大海賊エンドルなのだ。  大悪党に拉致された愛する娘を救出する為なら、いくらでも金を注ぎ込むというだけの話だったのだ。 「さて。お姫様はどこまで知ってる?なぜラミネートに手紙を送ってきたのかな?」 「それは私を汚したラク様の『ミス』ですわね」  フン!まわりくどいお姫様だ。
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