迷惑な手紙

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『ヒュッ! タンッ!!』 いつものように来た。 今は授業中なのだが、弓道部の先輩が俺に何か伝えたいことがあるようで、矢文を飛ばしてきた。 「一条のやつ…」 担任の藤田が言ったが、本人には怖くて何も言えないはずだ。 さらには、三年連続で国体に出場することになったので、誰にも先輩には口出しできない。 授業が終って、廊下側の少し高い場所に設置している的に刺さった矢を、俺は机の上に乗って引き抜いた。 そして文を解いてその文面を見た。 いつも通り達筆だ。 筆ペンではなさそうで墨をすって書いてある。 これもいつも通りだ。 『みんな、私のこと、どう思ってるのかしら?』 いつものように他愛のないことだ。 いつものように、わざわざ授業中に飛ばしてくる必要のない文面だ。 携帯のメールで済むような内容でも、こうやってわざわざ授業中に矢を飛ばしてくる。 もっとも、弓道部員は俺と先輩だけなので、絡む相手は俺しかいないようだし、何もかも優秀すぎて、友人もいないように思う。 さらには先輩の教室にも的がある。 当然、俺にも打って来いということだ。 俺はさすがに国体に出られるほどの腕前はないが、総体は出られることになったのだが、先輩には内緒でキャンセルした。 先輩が気を利かせてくれたようで、的までの間に人が立っていない。 先輩のクラスメイトたちは教室の前後にいて、俺の動向を探っている。 仕方がないので俺は弦を引き矢を放った。 俺の場合、文はいらない。 アーチェリーの弦を引き、アーチェリーの矢を射ったからだ。 このあとがかなり怖いが、あの矢は、退部届けの代わりにもなっている。 ―― おわり ――
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