第4章:今夜は月が綺麗ですね。

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「そうか。当時はベトナムという国を北と南に分けて戦争が行われたんだ。北は共産主義で主にロシアと中国が裏でサポートし南は資本主義でアメリカが正規の軍人を送ってまでして協力をしたんだ。」 「なんでベトナムにそこまで執着したの?」  月詠は尋ねる。俺も同じ疑問を感じた。 「当時アメリカ政府は、世界に共産主義国が増えてその勢力が強まるのを恐れていたんだ。共産主義は国が生産や消費の上限を決めてしまうので、経済成長の妨げになるからだ。ベトナムが共産主義になるとドミノのように周辺の国も影響を受けて共産主義に変わるとアメリカは考えていた。」 「戦争の結果はどうなったの?」 「北側が勝利した。つまりアメリカがついた南側は負けたんだ。」 「正規の軍人を送ったのに負けたの?」  月詠は驚いている。俺も月面着陸では勝ったアメリカなのにと意外に思った。 「ああ。結局アメリカの軍人はまともな戦いができなかったんだ。戦うべき敵が目の前に現われてくれなかったと言うべきか。北ベトナムは『南ベトナム民族解放戦線』という特別な部隊を持っていた。部隊はロシアや中国から支援を受け、ベトナムの中で独立を強く願う優秀な若者が多く参加し、少ない人数で土地を生かした戦法で戦ったんだ。彼らは南ベトナムの村にうまく隠れてアメリカ人は彼らを追い詰めれなかった。明確に南ベトナム人と区別しようと集落を分けようとしたけど、南ベトナム人は自分たちの住み慣れた集落を離れるのを拒んだ。アメリカ軍は北ベトナムから派遣された兵と誤って攻撃し、結果不必要な血が流れた。無実の人を殺してしまったという罪の意識でアメリカ兵の中には心を病む人もたくさんいた。」 「月は誰のものでもなかったけど、国は既に人が住んでるからな。」俺は思わず発言した。 「そうだな。共産主義の北側は勝ったが幸いベトナムの政治は典型的な共産主義にはならずに、生産や消費の上限はない社会主義国となった。」 「アメリカ政府の仮説は当たらなかったんだな。」 「そうだよ。鉄羅、当時のベトナム戦争を象徴する寓話があるんだよ。知っているか?月詠は本を読んでいるからわかるよな。」 「知らない。どんな寓話?」  親父の話は人を夢中にさせる。色々抜けている部分が多いのに女性にモテるのは圧倒的な知性があるからだろう。 「月詠、サソリとカエルの話できるかな。本の最初の方に書いてあっただろ。」 「うん。ある所に川を渡りたいサソリがいました。でも泳げないのでカエルに背中に乗せてくれと頼んだの。カエルは最初は断ったわ。毒針で僕を刺すつもりだろうと。サソリはお前を刺したら泳げない俺は一緒に死んでしまうのでそんな事するわけないじゃないかと説得したの。そしてカエルは納得しサソリを背中に乗せて川を渡り出した。」 そこまで話して月詠は一呼吸した。 「なんだかいい話そうだな。」 「テラにい、まだ続きがあるのよ。川の途中まで来たところでカエルは背中に激痛を感じたの。まさかと思って振り向くとサソリが毒針を背中に刺していた。カエルは怒り悲しんだわ。どうしてそんな事するんだ、君も僕も溺れ死んでしまうじゃないか。サソリは毒が回って死にかけているカエルに言ったの。どうしてだかわからない。多分これはお前がカエルで俺がサソリだからなのかもしれない。性(サガ)ってやつなんだろう。結局二匹とも川に沈み死にました。」  なんだよその救いようのないオチは、と俺は半ば唖然とした。  俺の表情を見て親父は微笑みゆっくりと話し出した。 「この話は色んな解釈あるんだけど、川はベトナム含む東南アジアという未知の土地、サソリはアメリカ、カエルは南ベトナム人を表現しているというのが有力な説らしい。南ベトナム人をアメリカは説得して東南アジアを征服しようとするが、結局アメリカが持つ『支配欲』で共倒れしてしまうっていう。」 「なるほど。親父はなんでもよく知っているな。」  俺は素直に感心した。 「お前らより長く生きているだけだ。月詠が良い本を読んでいるので、久々に皆で会話ができたな。当たるかどうかは別にしてどんな事にも疑問を持って自分なりの仮説を作るのは非常に重要だ。月詠、水澤さんのお孫さんに宜しくな。」    最後に親父はお茶目な口調で月詠にそう言った。  月詠は素知らぬ顔をしていたが俺の目には嬉しそうに映った。  親父め、2人の仲を応援する気か?と腹が立ち生しらすを勢いよく食べると生姜が喉にあたり痛かった。  
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