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次の日『光る闇』の内容が気になり俺は大学の帰りに茅ヶ崎市立図書館で本を借りた。
読んでいるのを月詠に見られるのが嫌だったので、自習室で読む事にした。
とっつきにくい文章だったが、昨日の親父と月詠との会話のお陰で2時間ほどで読み終えた。
小説は終始、当時の南ベトナムの首都サイゴンの混沌とした状況や、主人公が恋に落ちた少女の話を行ったり来たりしていた。正直、ベトナム戦争については昨日の親父の説明の方がわかりやすかったが、経験した者しか描写できない戦地での暑さや匂いの生々しさを感じ、いい小説と言われる理由はなんとなくわかった。
月詠のボーイフレンドがしおりに書いていた『何となく月詠みたいな少女』に、主人公は現代でいうガールズバーのような場所で出会っている。
少女はバタフライという名前で他のベトナム人とは違い白い肌と緑色の目の色を持っていた。確かに容姿は月詠を彷彿させるところがある。
しかし、主人公はベトナムに行く前に結婚しており、子供もいるので不倫関係であったのが気にくわない。2人がキス以上をしている描写が多くあり月詠には読んで欲しくない内容だった。
月詠と彼も2歳だが年が離れているし、あいつはどこか軽く月詠を扱っているんじゃないだろうかとネガティブに考えてしまう。
そして、このまま彼らが付き合い続けるとキス以上の関係になるだろう。もしくは既になっているかもしれない。
暗い気持ちで図書館を出ると、冬が近づきより一層強くなった海風の冷たさに体が震えた。それはまるで俺の不安を煽るかのように思えた。
家に戻ると月詠はソファーに座り手鏡で目や髪の毛の色を確認していた。
心配しなくても十分綺麗だぞ。と言える訳がないセリフを飲み込んだ。俺は胸の痛みを抑えながら無理矢理飲み込まなくてはいけない言葉をあいつは軽く息を吐くように月詠に言えるんだよな。
いつまでも月詠に想いを寄せていてはいけないんだ。そのうち痛みで体がもたなくなるだろう。
美しい彼女から目をそらし俺は軽く筋トレをするため自分の部屋に向かった。
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