第3章:ルナティックな僕ら

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 ボーイフレンドが出来たせいか月詠はより女性らしくなっていく。 「テラにい、これから自分の服は自分で洗うから。」  そう言って彼女は洗濯物を分けるようになった。思春期に見られる典型的な行動だとネットで読んだのであまり気にしないようにした。実は最近彼女の下着がめっきり女性っぽくなってきてどうしたものかと困っていたので自分で洗濯してくれるのは正直助かる。  そう割り切ったものの、月詠は自分のお小遣いでいい匂いの柔軟剤を買って彼女の洋服は俺のとは違う香りを放つようになりなんとなく寂しいと思ってしまう。  洋服だけではなく、シャンプーやボディーソープも変えたようで彼女自身も我が家とは違う匂いになっていく。 「月詠、お小遣い足りてるか?何を買って欲しいか教えてくれたら、今から一緒に買ってくるぞ。」  思わず彼女のお財布事情が心配になり週末買い物に行く前に声をかけてみた。 「大丈夫。」読んでいる本から目を離さず彼女は答えた。 「本当か?シャンプーとか結構高いだろ?」念のためもう一度確認する。 「テラにい、過干渉きもい。」  バッサリ切られ俺は傷つきそそくさと家を出た。  家に戻ると月詠はいなく、リビングには彼女が読んでいた本がソファーに残されていた。  ラノベでも読んでんのかな?と本を手に取ると古い文庫本であるのに気づいた。  真っ黒な表紙に『光る闇ー水澤亨』と黄色い文字でタイトルと作者のみが書かれている。こんな渋い本読むなんて珍しいな。中学校の読書感想文の宿題だろうか。  悪いと思ったが独特の表紙とタイトルに興味が湧き小説を斜め読みした。本の著者である物語の主人公は日本人新聞記者でベトナム戦争に志願兵として参加し、その経験を書き留めたノンフィクションに近い小説なようだ。    真ん中くらいにしおりが挟まっており、手書きで何か書かれている。 『俺のじいちゃんが書いた本。読みにくい文章だけど、よかったら。主人公がベトナムのサイゴンで出会った少女が何となく月詠みたいなんだ。』  なんだ月詠のボーイフレンドから借りている本だったのか。  あいつ小説家の孫なんだな。だからあんな巧みな言い回しができるんだろう。  勝手に本を読んだのがバレたら一大事だと思い、俺は文庫本をそっとソファーの元の位置に戻した。
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