第1章:月と地球、出会う。

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第1章:月と地球、出会う。

「アメリカで頭が良い人達はNASAを目指すんだ。」  俺の人生最初の記憶は親父からのこの言葉である。  当時の俺は3歳で意味はよくわかっていなかったが、普段はあまり家にいない親父に抱かれ夜空を見上げるというエモーショナルなシチュエーションが印象的で覚えているのだろう。  世間で知られているようにNASAはアメリカ政府内で宇宙開発を担当する連邦機関である。  彼らが企画したアポロ計画は人類が初めて有人宇宙船を地球以外の天体に到達する事業を成功した。言うまでもないが、その天体とは月だ。  日本にもJAXAというNASAに近い機能を果たす国立研究開発法人があり、かつて親父はそこで働いていた。  宇宙をこよなく愛する親父は俺を『鉄羅(テラ)』と名付けた。テラはラテン語のTerraから来ており、地球という意味がある。  もっというと、Terraの語源はローマ神話に登場する大地の女神で、地球以外の惑星の大陸や月の陸部分もラテン語ではテラと呼ばれる。  名前つけた時親父は、ルーツは女神だが鉄という漢字ををつければ男らしくなると思ったそうだ。  変な名前とかキラキラネームだとバカにされるが幼い頃から名前の由来を親父から何度も聞いていたので、皆を黙らす事が出来る。    名は人を表すもので、俺は宇宙が好きな子供に育ち一方で父親不在が多い幼少期も母親を守れるようにと常に意識し強い肉体と精神力を備えていった。  親父は俺が小学校に入る頃に私立大学の宇宙工学科の教授になっていた。  研究のため親父が単身赴任でデトロイトに行ってしまった時、当時9歳だった俺は夢中で勉強した。母親しか来れなかった授業参観で如何に宇宙が素晴らしいかを自分なりの言葉で皆に伝え、将来は宇宙に関わる仕事をすると宣言した。  そんな憧れの存在であった親父は俺が小学5年生の冬、デトロイトから突然帰国する。    久々に会える!と喜び母親と意気揚々と2人で玄関で彼を迎えると、突然大きなフランス人形が目に入った。  もしかして俺へのお土産?えー?もうすぐ俺中学生だぞ。と思っていたら、突如人形が動き出した。  声を上げるほどびっくりしたが、すぐにそれは人形ではなく金髪の子供だと気づいた。  一瞬、母親は不審な顔をしたが、アメリカから子供を預かったと思ったのだろう。彼女に優しく話しかけ、親父の代わりに抱き上げた。  何語で話しかけてはよいか分からず、とりあえず英語で名前は?と尋ねたら、ピアノのような音色で彼女は「ルナ」と答えた。  ルナはラテン語で月を意味する。いい名前だねと言うと彼女は初めてニコッと笑った。  久しぶりの家族揃っての夕食をとった後、ルナは俺と一緒に寝ると言った。可愛らしい彼女に心奪われ自分の部屋に連れていき、いつのまにか一緒に眠りについたが夜中に母親の大きな声で目が覚めた。   声は隣の寝室から聞こえる。  ルナを起こさないようにそっと彼らの寝室に近づくと、言い争いをしているようだった。  ドアの近くで耳をそばだてて2人の会話を聞いた。  「やっぱりルナはアメリカ人との同僚に出来きた子なんでしょう!?」母親の衝撃的な言葉が聞き取れ俺の体は硬直した。
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