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第3章:ルナティックな僕ら
月詠(ルナ)は自分は月の子と思っているらしく、黄色っぽくて丸いものが好きだ。オレンジや目玉焼きテニスボール。与えると無邪気に喜ぶ彼女を見ていると俺は満たされた気持ちになる。
『満たされる。』か、人はきっと自分を補うものを探しているんだろう。
昔、母親が読んでくれた絵本に半円が不器用に坂道を転げながら生涯かけて自分が完全な円になるためのパートナー、いわばもう一つの半円を探す物語があった。
母親が出て行った後の喪失感を克服しようとしていたのかもしれない。俺は月詠を愛でることで自分自身を満たしている。
しかし、月詠にはどんな愛情も鬱陶しく感じる時期が来たらしい。
家族の裏大黒柱の如く、仕事に没頭する親父と月詠の面倒を見る必要があると感じた俺は地元である神奈川県の大学の工学部に進学した。
月詠は中学生になり美しく成長している。
女の子は父親に似るせいだろうか、金髪は茶色が混じり目も青から緑に変化している。
でも容姿に触れる事はタブーなんだ。アングロサクソン系の白人の母親を持つ彼女は成長が早いらしく小五くらいに急に身長と体重が増えた。
新しい服を買った方がいいと悪気なく指摘すると信じられないくらい強く反発された。あの日から体重が増えない低カロリーメニューに変更したせいか今は普通を保っている。
神奈川県は米軍基地があるためアメリカ人とのハーフは珍しくないのだが、俺たちが住む茅ヶ崎市の昔ながらの港町にある中学校は一学年に1人いるかいないかだ。
月詠は小学校の時は周りと違い過ぎる容姿を割と気に入っているように見えたが、最近はなんだか周りと同じようになるのを意識しているようだ。
何かあったのだろうかと思った矢先、月詠は突然髪を黒く染め出した。
これはあまりいいサインではないと俺は密かに警戒した。
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