天女の末裔

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昔、カミサマを見た。 養護施設の園外保育で訪れた、エメラルドグリーンの湖。湖面に佇んで空を見上げる少年を見掛けた。 髪は翡翠色で、その姿はとても美しくて・・・森厳としていた。神々しい立ち姿に見惚れて声を掛けられずに立ち尽くしていると、少年から声を掛けられた。その時、何を言われたか。忙しい日々を過すうちすっかり忘れてしまった。 それから10年後ーー現在(いま) オトミ湖は、妙高山の麓。ダムによってせき止められて出来た人工の湖である。チンダル現象により、湖に青みがかかり、美しいエメラルドグリーンの湖面を静かに湛えていた。 ピピピィスマホのアラーム音が静まり返った部屋の中に鳴り響いた。 「稜太、まだ暗いよ」 「お兄ちゃん、起こしてごめんなさい」 一週間、湖畔の貸し別荘に滞在し、湖水浴をしておもいっきり遊ぶーー確か、そう言ったよね。それなのに、ここについて二日間は1歩たりと外に出ないで、お兄ちゃんとベットの中でゴロゴロしてる。そして三日目となる今朝。お兄ちゃんが起きる前に別荘を抜け出し散歩に行く計画を立てたのだった。お兄ちゃんが再び眠るのを待って、音を立てないように静かにベッドから抜け出し、この旅行のために新調したサンダルを履いて外へと飛び出した。 ひんやりとした朝の冷気が稜太の頬をそっと撫で、思わずブルッと身震いした。靄かかった湖面は幻想的な美しさを醸し出していた。稜太は何かに導かれるようにフラフラと歩き出した。 ーーわぁ~綺麗な人・・・ どのくらい歩いただろうか。気が付けばだいぶ奥まで遊歩道を進んでいた。何気に湖に目を遣ると、水面に美しい少年が立っていた。一糸纏わぬ姿で。 「あ、あの・・・」 人見知りにも関わらず気付けば声を掛けていた。吸い込まれるように少年のもとへ歩み寄っていた。どこかで彼を見たような気がして。このエメラルドグリーンの湖にも見覚えがあった。でも、肝心なところが思い出せなかった。 「舐める?」 凛とした透き通った声が辺りに静かに響き渡り、キャンデーを差し出された。一度はいらないとやんわりと断ったものの、おっかなびっくり受け取る稜太。 「毒は入ってないよ」 クスクスと笑う少年。稜太は恐る恐るキャンデーを口にした。 「舌をはわせ、味わう・・・冷たさ、そしてとろける・・・あぁ、頭が痛い」 何かの呪文なのだろうか。ひんやりと冷たく甘い味が口の中に広がり、舌の上をコロコロと転がり、呆気ないくらいはやくホロリととけていった。 「頭キーンとならない?」 頷くと少年の手が伸びてきて、あれよあれよという間に着ていたシャツを脱がされて。気が付くと、すっぽりと抱き締められていた。華奢だと思っていた彼の二の腕は逞しくてがっしりとしていた。 「君がくれたかき氷味のキャンデー。すっごく美味しかった。゛いつか必ずまた来るね゛゛絶対だぞ゛゛うん、分かった゛君は覚えていないと思うけれど」 「ごめん、なさい」 まさかそんな約束を交わしていたとは。何一つ覚えていなかった。 「思い出すおまじないしてあげようか?」 「おまじない?」 きょとんとした稜太の顔に少年の顔が近付き、唇に温かなものが触れた。それが少年の唇だと気付くまで少し間が空いた。 「顔が真っ赤だよ。もしかしてはじめて?」 クスクスと悪戯っぽく笑われて。顔向け出来なくて俯いた。
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