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けたたましい蝉の声を聞きながら、教室に入った。もちろん、誰も俺の方を見向きやしない。飛んでくる視線は、全て隣を歩く神崎に注がれる。
神崎は、寂しそうに微笑を湛えながら俺を見た。その顔は、とてもじゃないけど暗く沈んでいるように見える。笑顔が印象的な彼女からはあまり想像できない表情に、以前の笑顔が恋しくなった。
俺が死んだ日の神崎の様子は知らない。だが、これを見る限り落ち込んでいたのがよく分かる。クラスメイトの誰もが、神崎にどう声をかけていいのか分からないと言った顔をしていた。中には不安そうに目を逸らす者も居た。
「道宮くん」
「なんだよ神崎」
「あのさ、元気?」
「どうしたんだよ急に。そんな脈略もないこと……」
席についた神崎が、突然力なく笑って訊ねてきた。いいから、と急かすので「元気だ」と答えれば、彼女は曖昧に微笑んだ。
「暗い話は御免だぞ。なんなら、明るい話しないか?」
「明るい話?例えばどんな……?」
「好きなヤツの話とか」
「えー、道宮くんって恋バナするほど経験あるの?」
「ないけど、好きな子くらいいるしな……」
「待ってそれ初耳なんだけど……!詳しく聞かせて!」
無理やり提案した話題だったが、意外にも神崎は食いついてきた。途端に笑顔になった彼女に俺も感化されたように微笑する。声が大きかったのか、クラスメイトの数人が怪訝そうにこちらを見つめていた。
それもそうだ。周りから見れば、神崎が一人で話しているようにしか見えないのだから。
「わ、悪い神崎。あんまデカい声で喋るとお前が恥かくよな……静かに話そう」
「そ、そうだね……」
困ったように笑って神崎は頷いた。
そうして続きを話そうとした時、一人の男がこちらにズカズカと歩み寄ってきた。
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