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「……はよ」
仏頂面で挨拶をした彼は、俺がよくつるんでいた悪友だった。確か、神崎とは他の女子と比べてかなり話す方だったと思う。彼は女子が苦手だとか以前言っていたが、神崎は別格らしい。
それはいいとして、彼は今はっきりと俺をその目に捉えている。まさかとは思うが、俺が見えているのだろうか。
「おはよう、瀬良くん」
「なんだよ、お前は俺が見えるのか?」
「あ?当たり前だろ」
「お前って霊感あったのか……」
「意外、瀬良くんって幽霊見えるタイプだったんだ」
「霊感とか知らねーけど、まぁそうなんじゃねぇの」
瀬良は面倒くさそうに眉間に皺を寄せると、正面の席にどっかりと腰かけた。
「……大丈夫なのか」
瀬良は俺の目を見てそう訊ねてきた。
「まぁ、普通。幽霊になったこと以外は変わりない。むしろ神崎の方が大丈夫じゃなさそう」
「あはは……」
神崎は大きな目を細めて眉を下げた。その様子を見てか、瀬良が決まりの悪そうに目を逸らした。
「……寂しいもんだな、身近な人がいなくなるって」
「そうだね。いつも当たり前のように居た人と突然会えなくなるのって、どうしようもなく寂しい。苦しくて、頭がどうにかなりそう」
瀬良が柄にもなく寂しそうに眉を下げると、神崎も憂いげな目をして言った。
あぁ、俺の死は二人を苦しめているんだな。
そんな罪悪感に苛まれては、青い影を落とす二人の顔を見つめた。
「まぁ、そんな寂しい顔すんなよ二人とも。俺は幽霊になったけど、こうして今ここに居るんだし」
「そうだけど……」
「……」
無理やり明るい調子で言えば、神崎は余計苦しそうに唇を噛んだ。瀬良は俺とは目を合わせないまま、やり切れないと言ったような顔をしている。
「神崎には言ったけど、どうせなら明るい話がしたい。いつ成仏するかわからないし、出来るだけたくさんのことを話したい」
「……お前がそう言うなら、それでいいけどよ」
「うん、そうだね。三人で久々に他愛もない話をして盛り上がりたいな」
神崎がへらりと笑う。俺が密かに恋い焦がれていた向日葵のような笑顔は、もちろんそこにはない。その笑顔を奪ってしまったのは、紛れもなくこの俺だ。だから、生前と変わらないくだらない話に花を咲かせて、彼女の笑顔を取り戻したい。
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