夕立の幽霊

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* 「神崎、昼ご飯買いに行かないか?」  四限目の授業が終わり、自分の席に座っていた彼女に声をかける。少しだけ眠たげにこちらを向いた彼女は、それを聞くと嬉しそうに目を細めた。 「うん、いいよ」 「って言っても、俺は皆に見えないし買うの難しいんだよな……霊体になっても腹が減るから、そのところは不便だ」 「誰かに買ってきてもらう?」 「だな。神崎一人にたくさん買わせたら、食いしん坊だと思われそうだしな」 「あはは、確かにそうだね」  さすがに女の子にそういったイメージを着けさせるには申し訳ない。本人もそれは嫌だったのか、困ったように表情を歪めていた。 「道宮、どこ行くんだよ」  神崎と二人で購買へと向かっている途中、朝みたいに瀬良が話しかけてきた。 「購買だよ。腹減ったからな」 「……珍しいな。お前って購買に行くタイプじゃなかっただろ」 「気分だよ、気分。なぁ瀬良、ちょうどいい所で声かけてくれたからさ、お使い頼まれてくれないか?」  財布を取り出しながら言ってみれば、瀬良はあからさまに嫌そうな顔をした。それもそうだ。彼は筋金入りの面倒くさがりだ。 「俺と神崎の分。パンは何でもいいからさ。……あ、神崎はチョコメロンパンだろうからそこはよろしくな」 「み、道宮くん何で知って……」 「……お前、やっぱ神崎のこと好きだったんだろ」  慌てる神崎を遮って、瀬良が眉間に皺を寄せた。それは宛ら真犯人を暴く名探偵。キラリと光る双眸が俺を凝視した。 「そうだよ、って言ったら?」 「……別に」 「なんだ、さっきまでは興味津々だったくせに」 「予想通りすぎてつまらなかっただけだ。それじゃ、俺は昼飯食ってくるから」 「あ、おい、お使いは……」  捲し立てるように言うと、瀬良はそそくさと教室に戻ってしまった。  取り残された俺と神崎の間には、微妙な空気が流れている。チラリと神崎の様子を窺えば、目を泳がせて口を噤んでいた。 「……神崎」  いつもみたいに名前を呼んでみれば、彼女はびくりと肩を揺らす。その大袈裟な反応が可愛らしくてふと笑えば、神崎も不器用ながらに小さく微笑んだ。
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