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それから、神崎とは共に昼食をとり、普段のように二人で下校した。俺のことが見えてこうして変わらず話しかけてくれるのは神崎だけ。その状況を利用して、俺は神崎との時間を楽しんでいた。
神崎も少しは回復してきたのか、以前の笑顔の片鱗を時折覗かせている。周囲の気遣うような、哀れむような反応は変わらないが、本人にはもう心配の必要がなさそうだった。
成仏しなくてもいい。
俺は、神崎と数日を過ごすうちに、この世に留まっていたいという思いを募らせていった。
この時間を失いたくない。
何気ないこの幸せな時を過ごしていたい。
そう思っていれば、俺の足はとある場所へと向かっていた。
けたたましい雨音が耳奥に飛び込んでくる。地面で弾ける雨粒は、足元をあっという間に濡らしていった。
俺は、とある交差点の脇に立っていた。
塗料がこびりついて湾曲したガードレールと、凹んだ電柱。それから、地面に刻まれた黒い爪痕。その上に置かれた、小さな花束。
俺が死んだ場所だ。
何の変哲もない交差点。多くの人が行き交う場所で、十七年という短い生涯を閉じた。ちょうど、こんな夕立ちに見舞われた日だった。
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