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「……神崎、俺はもう死んでるんだよ。もうさ、俺のことなんか忘れていい。じっとこっち見て引き止めるのは、もうやめろよ。そろそろ目を覚ませ。……俺を引き止める理由なんて、本当は神崎にはないんだろ?もし理由があるなら、聞かせてくれよ」
突き放すような言葉が、意思に判してボロボロと零れ落ちる。違う、俺は彼女を傷つけたいんじゃない。これは、ただの八つ当たりじゃないか。
むしろこの世に留まって、いつまでも彼女を縛っているのは俺の方だ。だけど、それを認めたくないのか、俺の口は勝手にそんなことを吐き出していた。
「……道宮くんと会えるうちに、したいことを全部したいからに決まってるじゃない」
勢いを増す雨の中で、彼女が震えた声で言った。
「道宮くんとしたいことが、いっぱいあったから!……目なんて、もうとっくに覚めてるよ!何もかも遅すぎたって、もうすぐ会えなくなるって全部わかってる……!でも、こんな奇跡もう二度と起きないから!わたし……っ、私は……!」
雨か涙か分からないそれが、神崎の両頬をとめどなく流れ落ちる。先程の自分の発言を酷く悔やみながら、傘を投げ捨てた俺は泣き喚く彼女を強く抱きしめた。「ごめんなさい」と真意の分からない謝罪を述べながら、彼女は俺に縋りつく。どこか懐かしい匂いのした彼女の髪を撫でながら、しばらくそうしていれば、落ち着きを取り戻した神崎が俺を見上げた。俺は彼女の赤くなった鼻を見つめながら、
「……俺としたいことって、なんだよ」と微笑しながら訊ねた。
「したいことっていうか、言いたいことがあったの」
俺の両手をとった彼女が、途端に真剣な表情になった。冷たい体温が混ざり合うのを感じながら、俺はその先の言葉を待った。
「私ね、道宮くんのことがずっと好きだった。……今言うことじゃないかもしれないけど、どうしても今言いたかった」
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