ロサンゼルスの図書館で聞いた「言い訳の多い人生の作り方」の話

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ロサンゼルスの図書館で聞いた「言い訳の多い人生の作り方」の話

 うまくいかないことの言い訳を探すクセがついてしまった。アートプログラムの募集に落ちるのは、情報を探しやすくなって競争率が上がったせいだ。作品が売れないのは自分の作品と合うお客さんに見つかってないからだ。オファーがもらえないのは、作品の良さをみんなが分かってないからだ。  自分が直すべきところを棚に上げて、自分以外のどこかに直すべきところを探す。社会が悪かったり、システムが悪かったり。それはとても楽で、自分が傷つかなくて済む。  自分が作品を通じて大切にしたいことが散らかって散らかって、収拾がつかなくなっていた二〇一七年。私はロサンゼルスの図書館で海外のアートプログラムに出すために、ポートフォリオを整理していた。  企画に沿うように過去作を選び、写真を並べ替える。迷いながら、いろんな作品をつくってきた。自分のコンセプトに合うかどうか、どうしたらプロっぽく見えるのか。現代アートの世界には、とても精緻に描かれた作品もあれば良さがまったく分からないような謎すぎるものまであって、なんでもいい世界の中で自分が何を目指すべきなのか、しょっちゅう見失っていた。  サンタモニカの図書館はとても広く、二階にパソコンを使う机のあるスペースがある。メールを確認すると応募したレジデンスからの「ソーリー」が届いていて、また落ち込む。せめて、どこらへんがソーリーだったのかが分かれば、もう少し対処のしようもあるのに。 「あれっ、使ってる人がいる」  ドアが開いて背の高い黒人男性が部屋に入ってきた。個室の部屋がいくつかあって、外から見たら誰も使っていなかったので入ってきてしまったが、予約してた人がいたらしい。 「ああ、すみません。今どきますよ」 「いや、大丈夫。俺もここで作業するだけだから。予定してたミーティングがなくなってね。ただ作業するだけになっちゃったんだ」 彼は軽く首を左右に動かして私に言う。私は彼の言葉に甘えて部屋で作業を続けることにした。  斜めに向かい合うような位置でお互いに無言で作業を続けていたら、彼がバッグから缶コーラを出して渡してくれた。 「二本あるから一本どうぞ」 「いいんですか? 私、コーラ大好きなんですよ、やったあ!」 「しかめっ面をしてたけど、仕事が大変なのかい?」  そう言われて初めて、自分が険しい顔をしていたことに気づく。 「ああ、うまくいかないことが多いからですねー。どうしたらうまくいくんだろう」 「何にうまくいきたいの?」 「世界中で創作しながら暮らしたいんです…」 「いいね、楽しそうじゃないか。今もロサンゼルスにいるし、実現してるんじゃないの?」 「いるんですけど、人様のおうちに居候してるから、伸び伸びはできてないんですー」 「そうなんだ? ならホテルとか、他に泊まったらいいのに」 「その通りなんですけど、そんな余裕なくて…」  私がそう言うと、彼は自分のコーラを開けて大笑いし、音を立ててコーラを飲み干す。 「ははは、余裕はつくるもんなんだよ。ホテルに泊まることで気持ちに余裕ができるならそうしたほうがいい。余裕がなくてもいいっていう選び方を、君がしてるんだよ」  ロサンゼルスではホテルはどこも高い。それに一泊だけホテルに泊まったところで、すぐに移動しないといけないからゆっくりなんてできない。  そう言い返そうとして、私は言葉を飲み込む。私はいつもこうやって、できない自分を肯定し、言い訳によって叶わない人生を守ろうとしているのだ。
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