韓国のマーケットで知った「人に目が二つある理由」の話

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韓国のマーケットで知った「人に目が二つある理由」の話

 韓国テジョンの町にあるマーケットで、私はタコのキムチを買おうと四苦八苦していた。タコのキムチは8000ウォン(約700円)。ちょっと高かったので、量を減らして5000ウォンで買えないかと思い、その交渉をしたかったのだが英語が通じない。 「チョグム、チョグム」  韓国語で「少ない」を連発するが、そもそも韓国語を使ってることも分かってもらえてない感じだ。何を言ってるか分からない外国人相手に、お店のおばあさんも困り果てた様子。 「これ、買いたいんですか?」  話しかけられて振り返ると、黄色のワンピースを着た茶色い髪の若い女性が立っていた。 「はい。これ8000ウォンらしいんですが、ちょっと量を減らして5000ウォンで買えないかなあって思って」 「大丈夫だと思いますよ。聞いてみますね」  彼女が韓国語に通訳してくれたおかげで、すんなり買うことができた。おばあさんもやっと分かった喜びからか、満面の笑顔でタコキムチの袋を渡してくれる。 「日本語、お上手ですねー、助かりました。カムサムニダ」 「大丈夫です。私、ハーフなんですよー。お母さん日本人です」  彼女の日本語は、発音が少し韓国語っぽい。韓国で生まれ育ったという彼女は、日本にも頻繁に遊びに行っているようだ。 「来週、福岡に遊びに行きますよー」 「そうなんですね」  そう言いながら、この時期に日本旅行しても大丈夫なのだろうかと気になっていた。多少迷ったが、正直な気持ちを知りたいと思い直して聞く。 「今、日本旅行ボイコットとか流行ってるじゃないですか。大丈夫ですか、そういうの」 「大丈夫ですよー。私は半分、日本人ですし」  ハーフの外国人が日本でいじめに遭うという話を聞いたことがある。見た目が日本人と大きく違う場合には特に。 「ハーフで大変だったことってないですか?」 「んー、あるけど、よかったなって思うことのほうがずっと多いです」 「たとえばどんなことですか?」 「両方の気持ちがちゃんと分かること。両方の気持ちを知りたいって思えることです」  両親のことが大好きだと言う彼女は、どちらの国のことも母国として大事に思っているのだと言う。 「韓国人とか日本人とか、そんな簡単に分けられるほど人間は単純じゃないです。人は一人一人全部違うでしょう。なに人、みたいな枠で覆ってしまえば、何も見えなくなってしまいます」  彼女は両手で目を覆うような仕草をする。 「人に目が二つあるのは、一方からの見方をしないようにってことだって私の両親が教えてくれました」  手を下ろした彼女と目が合う。 「でも私は、もっとたくさんの見方があると思っています。そう思いませんか?」
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