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両親と不仲な女性が「ほかの人にダメ出ししてしまう理由」の話
大学時代、京都に一人旅をしに行ったことがある。中学の修学旅行で京都に行った時、私たちのグループは迷子になっていたせいで銀閣寺に行きそびれてしまった。京都のような歴史ある町がとても好きなので、いつか行きたいと思っていたのをやっと実現させたのだった。
予約した宿は個人経営の小さなところで、夏休みのせいか満室になっていた。この頃の私はすべての観光地を余さず見て歩きたいタイプだったので、夜にガイドブックを見ながら綿密に予定を立てていた。一本でも電車を逃すとここまでは行けない、ここは走ったほうが良さそう。
旅をゆっくり楽しむというよりは、チェックポイントをクリアーするみたいに、「とりあえず行く」ことが重要だったし、楽しかったのだ。今は調べるのも面倒くさい。だいぶ性格が変わったと思う。
ロビーに茶色く染めてゆるく巻かれた髪の女性がやってきた。ユリコさんという女性で、福岡の会社で働いていると言っていた。私と同じ日に着いて、すでに何度か話した人だった。
「明日の予定?」
「はい。メモしておかないと、電車の時間が分からなくなりそうで。あ、昨日教えてもらったお蕎麦屋さんよかったです」
ユリコさんはとても頭がいい人で、私がどこに行きたいと言うと、一番効率よくまわれるルートをサクサクと教えてくれた。ルート上にあるレストランや頼んだほうがいいいメニューまで事前に教えてくれるので、私はとても感謝していたし、振る舞いも大人びていて素敵だと感じていた。
「大丈夫だった? なんか細かく言い過ぎたかなって反省もしてて。あなたの旅なんだから、自由に好きなところに行っていいんだからね」
「いえいえ、とても助かりました。しょっちゅう来られるわけじゃないから、一度に全部行くのが好きなんです」
「そっか、よかった。私、つい言いすぎちゃうのよね。あ、お茶飲む?」
ロビーには無料で飲めるティーポットがあり、ユリコさんは私の分と二つ、お茶を淹れて持ってきてくれた。テーブル越しに向かい合ってソファに座って、一緒にお茶を飲む。ユリコさんは明日の早朝には宿を発つ予定になっていた。
「すごく優秀で気がつく人なんだなぁって思いますよ。あちこちよく見てていろんなことに気がつくし」
私がそう言うと、ユリコさんは首を振ってため息をつく。
「ありがとう、優しい言い方ね。でも違うのよ。本当はやめたいの、他の人にどうこう言うのは。でも、なかなかねぇ」
「えっ、どうしてですか? みんな助かってるのに」
「数回だからそう思えるだけよ、きっと。毎日だったと考えてみて。毎日、今日はあっちに行きなさい、お茶は熱湯で淹れてはダメ、書類のまとめ方はこうって」
私はまだ学生で仕事をしたことがなかったので、あまりイメージがつかず、できる上司の下で働くのは素晴らしいことじゃないかと思っていた。
「簡単に言うとね、私、誰かに否定されるのがすごく苦手なの。否定って言っちゃうと言葉が強いかな。もし私がもう一人いて、もう一人の自分にいろいろ指示されたら、すっごく苛立っちゃうと思う」
「そうなんですか?」
「うん、自分で言うのもアレなんだけど。息苦しくなりそう。お茶を熱湯で淹れたところで困らないじゃない? そういうのを気にするのが好きな人はいいけど、どうでもいい人にとってはどうでもいいことでしょう。私が細かく言いたくなってしまうのは、自分自身が誰かにダメ出しされたくないからなんだよね。先に言うことで、自分を守ってるってこと」
「なるほど。でもそれは、自分を守るためなら必要なことなんじゃないですか?」
「周りは着々と傷つけてるけどね。頼ってくれる人、依存傾向の人は集まってくれるけど、自由を好む人とかは離れてく。うーん、ほとんどの人はちょっとずつ距離をとるようになってきてるかも」
「ええー、気のせいじゃないですかね。私はとても助かりましたよ。ユリコさんに会えてよかったなって思いましたもん」
「ありがとう。うちね、家族があんまり仲良くなかったの。勉強しろっていつも言われてたし、できないとすごく怒られたし、お前はダメだっていっぱい言われたの。そういうこともあって、ダメって言われるのをとても恐れているのね。だから、誰かにダメって言われる前に先に相手を自分の下に置こうとしちゃうみたいなの」
相手に知識を分けたり、何かを勧めたりすることによって、自分が助けている立場をつくり、それによって人の下に立たないように、自然と人を操作してしまうのだとユリコさんは言った。
「自分でも気づいててやめたいの。でも、言わないと今度は逆にささいなことが気になってずっとイライラしちゃうのよね。もう、上とか下とか、そういうのが全然イヤなはずなのに、下にはなりたくないってすごい矛盾。すごい矛盾してる自分がイヤなのに、変えられない!」
ユリコさんはわざとらしく、きゃーっと声を上げながら、ふわふわの髪の毛をはたく。ごまかしているけど、本当は辛いんだろう。そう思ったが、私には言葉が見つからない。
「でも、昔はそういう自分に気づかなかった。今は気づけたから、本当にちょっぴりずつ変えていくわ。毎日、誰かのいいところを見つけて褒めるとか、ね」
私がただ聞いているだけで、ユリコさんは自分で解決法を見つけている。ユリコさんはやっぱり素敵な人だなと私は思った。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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(今後書くお話も含めて20話になります)
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