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深夜のコンビニの店員さんが「自分にふさわしい仕事を探してた時」の話
タンザニアでの仕事を終えて日本に戻ってきた日、疲れて寝込んで起き上がったら、すでに夜の十一時をまわっていた。おなかがすいたので、コンビニで何か買いに行こうと財布だけ持って外に出ると、それだけでなんだかとても感動する。
こんなに遅い時間で真っ暗なのに、安心して外に出られるというが、とても貴重なのだと身に染みた。一人でタンザニア取材をしていた時は、午後四時には宿に戻っていたし、リュックは身体の前に背負って、五秒に一度はついてくる人がいないか振り返って確認していた。警戒しすぎだったかもしれないが、常に神経をすり減らしていた感じだ。
久しぶりに日本のコンビニで食べたいものを探す。冷やし中華もいいな、おむすびも食べたいな、と思って歩いていたら、棚を曲がったところで商品を整理していた店員さんにぶつかる。同時に目まいがして財布を取り落とす。帰って来たばかりの私は、体重がひと月で七キロも痩せていて、体力が戻ってなかったのだと思う。財布から小銭がこぼれ、棚の下に散らばってしまった。
「わあ、すみません」
私は首を振ってため息をつく。ちょっと年配の店員さんで、店長かと思ったら名札に見習いと書かれていた。髪の毛がほとんど白くなっていたので、五十代後半に見える。
「わたしは大丈夫ですけど、お姉さん、大丈夫ですか。顔色があんまりよくないみたいですよ。わたしが拾うので、ちょっと座っててください」
店内に客がいなかったこともあり、店員さんはすぐに丸椅子を持ってきてくれ、それから散らばった小銭を手早く片付けてくれた。
「すごい、助かりました。ありがとうございます」
私は立ち上がり、丸椅子を店員さんに返した。
「大丈夫ですか」
「最近、ちょっと遠くから帰ってきたこともあって疲れてるみたいで」
「遠く?」
タンザニアから帰ってきたというと、店員さんはとても驚いたようだった。
「へえ、わたしはアフリカに興味があるんだけど、もしよければちょっとだけ聞かせてくれませんか?」
「いやー、なんかもう、とても大変でした」
タクシーで怖い目に遭ったことや、ザンジバルの海がキレイだったことなどを話す。店員さんはとても真剣に聞いてくれ、それから彼がアフリカに関連する事業で失敗したという話をしてくれた。
「失敗は失敗で、もうしょうがないんだけど、働き始めるのがなかなかできなかったんですよね」
年齢の関係で就職が難しかったのかなと思ったら、そういうわけではないらしい。プライドのせいだ、と店員さんは言う。
「一度は経営者をやってて、部下もいたんですよね。コンビニでバイトなんかできるかって思ってしまって。コンビニで働く人たちをバカにしてたんです。バイトするにしてももう少しマシなところで、なんて思っていたら、どこも雇ってくれなかった。横柄な態度が出てたんだな、きっと。
やっと雇ってくれたのがここなんだけど、学ぶことが多く、今はその時の自分を恥ずかしく思ってますよ。
自分にふさわしい仕事だなんて、仕事に上下をつけて勝手に分類していたんです。どの仕事も、世の中に必要とされているからあったのに。私は、自分のための仕事を探していました。仕事は、お金を払ってくださる方のために存在するのに。根本的な考え方が間違ってたんですよね」
店員さんは自嘲気味に笑ってから、頭を下げて仕事に戻る。私は食べ物をいくつか手にしてレジに向かう。お会計を終えた後に、店員さんが最後に言った。
「わたしはまだ、やってみたいことがあるんです。そのためにやれることはやるって決めたら、恥ずかしい事なんて何もなかった。みんな一生懸命、生きてる。わたしも同じです。まだまだ、がんばりますよ!」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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