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女性サーファーに聞いた「人生と同じで待ってる間もワクワクする」の話
オーストラリアのゴールドコーストは、世界一長い海岸だと聞いたことがある。本当かどうかは分からない。世界一が好きな国民だと聞いたから、世界一にするためにわざわざ伸ばしたのかもしれない。
夕方くらいに、私は海岸を裸足で歩いていた。長いスカートが風ではためくので慌てて手で押さえると、かぶっていた帽子が海へ向かって飛んで行った。靴とスカートを持ったまま走るが、風でどんどん転がって追いつかない。ちょうど近くにいた女性サーファーがボードを地面に置いてダッシュで帽子を取ってくれた。
「わあー。すみません、ありがとうございます!」
黒いウェットスーツに身を包んだ彼女は、白い歯を見せて笑う。短い茶色の髪と白い肌が、沈み始める夕日を反射していた。
「海に来てるのに、歩くだけ? サーフィンには興味ない?」
「運動のセンスがぜんぜんないんですよね。だから無理かも」
「気持ちいいよ、波の上に乗るのって」
彼女は自分が地面に置いたサーフボードのところに走る。会話が始まってしまったので、私は後を追うようにして声をかける。
「泳ぐのは苦手なんですけど、ダイビングはやりますよ」
「へえー、そうなんだ。ダイビングはやったことないなぁ」
「空を飛んでるみたいで好きなんですよね。サーフィンはどんなところがいいですか?」
彼女はサーフボードの横に座って波を見ながら言う。
「すべての時間が楽しいんだよね。いい波がきて乗れた時もいいけど、波を待ってる時も好き。なんか、人生みたいだなって思って」
「人生みたい?」
私は砂浜に靴を置いて彼女の隣に座る。
「うん。波に乗ってる時が一番気持ちいい気がするじゃない? 嬉しいことがいっぱいきてる時期っていうか。でも、サーフィンやってると、何もない時間もいいなって思うんだよね。いつかちゃんといい波はくるし、焦らなくてもいい、みたいな。ただこうやって座って、陽が沈んでいくのを見てるのも幸せなんだよね。待ってる間もすごくワクワクする。海って本当にきれいで。私、海が好きなんだ」
私は彼女と並んで海を見る。波が光って三角形の模様をいっぱいつくっている。
「人生も同じでさ、私、何も起こってない時間もすごくワクワクしてるんだ。次の波が楽しみで」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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