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アメリカ人女性の言う「いいニュースを捕まえるのは素敵な人を捕まえるのと同じ」の話
オーストラリアでワーキングホリデーしていた時、ケアンズに一週間くらい旅行しに行ったことがある。旅行中なのにさらに旅行するなんて、ちょっとおかしな感じもするが、半年以上オーストラリアで暮らしていると、旅行気分ではなく生活している気分になる。
ケアンズの滞在では節約のために女性のみのドミトリーの部屋に泊まった。観光シーズンではなかったのか、五人部屋には私以外に黒髪パーマの黒人女性しかいなかった。ベッドはどこを使ってもいいのだろうか。迷った私はケータイを見ながらベッドに仰向けになっている女性に声をかける。
「すみません、これ、どこ使ってもいいかって分かりますか?」
彼女は起き上がって白い歯を見せて言う。彼女は英語ネイティブのようで、話す速度がかなり早い。
「空いてるとこはどこでも使って平気だよー」
「ありがとうございます」
私は彼女の斜め向かいのベッドに自分の荷物を置く。貴重品は別にロッカーが用意されていたので、持ち歩かないものはあとでそこに入れよう。今日は市内を軽く歩くだけのつもりだった。
「中国? 観光できてるの?」
ピンクのタンクトップにショートパンツ姿の彼女は足をベッドに下しながら私に声をかける。振り返ると赤く塗った彼女の足の爪が目に入る。
「日本からです。ワーホリで来てて、いつもはゴールドコーストに住んでるんです」
「へえー」
「あなたは?」
「私はアメリカ。来週には帰るんだけどね」
オーストラリアから仕事を探しているようだが、なかなか見つからないと彼女は言った。
「帰る日が迫るほど焦っちゃうんだよね。あなたは帰国したらどうするの?」
「ぜんぜん、考えてないです…」
改めて問われると、何をしたらいいかどころか、何をしたいかも自分で分かっていない。この一週間はケアンズでダイビングをして、長い列車に乗って景色を見に行くみたいなことを考えていた。自分自身の帰国も二か月後くらいの予定だが、その後は何をしたらいいだろう。
「今って景気がすごく悪いみたいなんだよね」
「仕事が見つかりにくいですか?」
「ぜんぜん。いつもパソコン開いて、いいニュースばっかり探しちゃうけど、なかなかいいニュースってこないもんだね。こういう時は自分が世界一、運が悪い人みたいに思っちゃうよ」
アメリカ人は世界一が好きな国民だから余計に、と彼女は付け足した。オーストラリアに来てから、なかなかアルバイトが見つからずに、自分もいっつもケータイを見ていたことを思い出した。
「いいニュースを待っちゃうの分かりますよ。でも、いいニュースって待ってない時の方がきやすい気がしません?」
シェアメイトやクラスメイトがアルバイト先を紹介してくれたり、滞在先のオーナーがアイスやコーラをご馳走してくれたりすることが結構あったが、そういうのは突然起こることが多かった。
「あっ、分かった。いいニュースってボーイフレンドと同じってことだ!」
「えっ? どういう意味?」
「素敵な人ってさ、追いかけると逃げていくじゃない。でも、こっちが興味ない顔をしてると意外と向こうから寄ってくるってこと」
ほんとだと言って私が笑うと、彼女は「いい男を捕まえるつもりで、ニュースには興味がないフリをするわ」と言って、またベッドに横になった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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