留学を目指す韓国人男性が言う「やりたいことと環境を合わせると人生はうまくいく」の話

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留学を目指す韓国人男性が言う「やりたいことと環境を合わせると人生はうまくいく」の話

「そうじゃなければ、環境との対話が足りてないと思うな」 私は、オーストラリアの語学学校のクラスメイトと一緒に韓国レストランに向かいながら、情熱を傾けられることでうまくいくにはどうしたらいいかについて話していた。すごく英語が話せるわけではないので、ゆっくりと単語を重ねるようにして会話する。  レストランについて席に着くと、韓国人のクラスメイトが韓国語でオーダーしてくれた。私はプルコギ、彼はチヂミを選ぶ。韓国レストランはサイドメニューが食べ放題なので、料理が届いてすぐに食べ終えてお替りをお願いする。オーストラリアは物価が高かったので、安く食べられるのは大歓迎だった。 「環境との対話ってどういうこと?」  さっきの彼の言葉がよく分からなかったので、私は聞き返す。情熱をかけたことがうまくいかない場合、環境との対話が足りないんじゃないかというのが、彼の意見だった。 「うーんとねぇ、たとえば僕さ、家で長らく自炊してたんだよね」 「自炊? 私もしてるけど。それは普通じゃないの?」 「そう、普通は自炊しようって考えるんだよね。僕もそう。節約になるし。だけどさ、うちってすごい狭いんだよね」  オーストラリアではシェア暮らしするのが普通で、キッチンもみんなで使う。彼のうちはキッチンや冷蔵庫が狭く、ゆっくり料理するのは難しいらしい。 「名前を書いてても食材を人に使われちゃうこともあるし、自炊するにはあんまり向いてないんだよ」 「へええ、それは困るね」 「うん。だけどさ、自炊をそこまでしたいかと言ったらそうでもなくて。僕、オーストラリアに英語と経営の勉強をしに来てるんだよね。英語力がついたら、シドニーの大学に留学するつもりで」 「あっ、そうなんだ」  彼はもともとフィリピンに語学留学していた経験があり、会った時から英語がかなり話せていた。専門用語が弱いので、その辺りを勉強してこっちにいる間に大学のマスターコースを受験するつもりだったようだ。 「自炊は嫌いじゃないし、好きなほうだとは思うんだけど、そこまでやりたいかっていうと、そうでもない。自炊するためにスーパーに買い物に行ったり、狭いキッチンでイライラしたりしてるくらいなら、パンを買っちゃうとか外食するとか、自炊に時間をかけない方法を取るべきだったなって思ってるんだ」 「それが環境との対話?」 「うん。今の家は、自炊するには向いてない。それを無視して自炊しても、自分にストレスがたまるだけ。そこで自分が本当にやりたいことを思い返したら、自炊じゃなかったから、その時間は削って勉強に当てるのが一番いいなって」 「なるほど。勉強するにはいい環境なんだ?」 「うん。家の人たち静かだしね。他の家だと毎夜パーティしてるところとかあるし、部屋にいると勉強に集中しやすい。狭い分、家賃も安いし」 「そっかぁ、なるほどなぁ」  食事を食べ終わった私たちはお会計をしに家を出る。 「逆に言うなら、自炊のほうが大事だったら、そういう環境に移動したほうがいいんだ。自分が今、一番時間をかけたいことと環境をちゃんと合わせるっていうのが、人生をうまくいかせるコツだと思うよ」  彼はそう言うと、手を振って去っていった。 =+=+=+=+=+=+= ここまで読んでいただきありがとうございます! 3冊目出したので、物語が気に入ってくれた人はこちらもどうぞ。 ▼旅の言葉の物語Ⅲ/旅先で出会った55篇の言葉の物語。 https://amzn.to/3gCQ7VJ ▼エブリスタで非公開のお話が20話読めるのがこちらのマガジンです。 https://note.com/ouma/m/m018363313cf4 (今後書くお話も含めて20話になります)
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