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ニューヨークのダンサーが言う「焦りには良いものと悪いものと二種類ある」の話
ニューヨークの友達の家に一か月滞在していた時、友達に誘われてメキシコ料理のレストランに行ったことがある。ニューヨークで外食は高そうだと思ったのでためらっていたが、ランチはそれほど高くないと言われたので一緒に行くことにした。
レストランには友達の友人でダンサーをやっている女性も来ていた。編みこまれた黒髪に褐色の肌の彼女は、右耳に大きな金色のリングピアスをしていた。メニューを見るとランチはそれほど高くない。節約しながら旅をしていたので、安く食べられるのは大歓迎だった。
「ダンサーでやっていくとか大変そうなのに、すごいですね」
私が話しかけると、女性は長い茶色の髪をゴムで結びながら言う。
「今でも大変だよー。ニューヨークは競争がすごいもの」
ニューヨークに住んでたことがあるという友人が何人か、疲れ切ってニューヨークを去ることにしたと言っていたのを思い出す。
「それでも続けていられるのは本当にすごいです」
「焦ってたことも何度もあったけど、ある時から焦らなくなったのね」
「へえ。なぜ?」
「焦る理由って二種類あるなって思ったの」
頼んでいた料理がきて、私はあまり好きではないアボカドを友達に譲る。
「二種類っていうのは?」
「周りにさせられる焦りと、自分の中から起こってくる焦り。自分の中から来るものならいいんだけど、だいたいの焦りは周りからくるものなのよね」
ダンサーとかやってて平気なの? 将来のことちゃんと考えてる? それでやっていけるの? たくさんの言葉に焦って、何度も道を変えようとしたと彼女は言った。
「それでも続けようって思えたのは、自分の心の声が逆だったから。ダンサーをやめてた時もあったんだけど、その時の方が自分は焦ってしまってたのね。私の人生なのに、どうして周りが言うことに従ってしまうんだろう。本当はダンスがやりたいのに! ダンスがやりたいのに! って」
彼女はその後、仕事をしながらダンスも始め、徐々にダンスのみにシフトしていったそうだ。
「自分のことなのに、どうして自分が心から望むことを選んであげられなかったんだろうって思ったことがあったの。焦る気持ちに押されちゃったって思ったんだけど、その焦りは自分の中から出たものじゃなかったから」
彼女は残っていたごはんをスプーンですくって口にし、飲み込んでから言った。
「周りの声はよく聞こえるけど、自分の声は聞こうとしてやらないと聞こえにくいものなのよね」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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