ニューヨークのダンサーに聞いた「やりたいことを後回しにしてしまうのはいい兆候」の話

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ニューヨークのダンサーに聞いた「やりたいことを後回しにしてしまうのはいい兆候」の話

 ニューヨークにあるメキシコ料理のレストランで、私は友達とランチをしていた。友達が連れてきたのはニューヨークでダンサーをしている女性で、彼女は食後にコーヒーを頼み、ブラックのまま味わっていた。 「自分の声を聞いて、実現に向かって行動されたのは素晴らしいですよね。私はやりたいと思うことを後回しにしがちかもしれない」 「あら、それはいい兆候だと思うけど」 「えっ、なぜ? 後回しにしてても何もならないじゃないですか。少しでも進むように頑張るべきなのに」  私はそう言いながら、頑張れていない自分を思い出して苦笑いする。彼女は編みこまれた黒髪を指で軽くねじりながら言う。 「後回しにしてるって言えるってことは、それをちゃんと自分のやりたいことだって分かってるってことでしょう?」  私はうなずく。彼女は少し考えながらもう一口、コーヒーを飲む。 「やりやすいことから手をつけてしまいがちになるけど、それもいいの。ちゃんと助走してるってことだから。後回しにしてるのはただ、怖いだけ。うまくいかなかったらどうしようって思ってるだけ。でも、後回しにする気持ちっていつまでも消えないものなのよ」  何かが叶っても、次はどうしたいが次々と生まれて、終わりがないのだと彼女は言った。 「滝の前にいて、飛び込むか迷ってる時ってドキドキするじゃない。ためらってる状態はそれと同じ。でも、そこにいる限りはちゃんと飛ぶから。一度飛べてしまうとね、飛べなかった時のことを忘れて、簡単にできるなって思えるようになる。そうなると、いつでも飛び込めるでしょう」 「どうせ飛ぶなら、もっと高くから飛べるようになりたいし、ためらってる時間はやっぱり短いほうがいい気がします」  自分は飛び出せなくても、誰かが飛びたがっていたらきっと、私はすぐに飛ぶようにアドバイスするんじゃないだろうか。 「そう。そうね。でももしかしたら、必要な準備が整ってないことに気づいているから飛んでないのかもしれないわよ」  彼女はコーヒーを飲み干し、私たちに外へ出ようと促す。 「物事を後回しにしてるって分かっているのは、自分がそれをやりたいってちゃんと分かっている証拠。それに気づいてるだけで、自分の気持ちと話し合ってるんじゃないかな」 =+=+=+=+=+=+= ここまで読んでいただきありがとうございます! 3冊目出したので、物語が気に入ってくれた人はこちらもどうぞ。 ▼旅の言葉の物語Ⅲ/旅先で出会った55篇の言葉の物語。 https://amzn.to/3gCQ7VJ ▼エブリスタで非公開のお話が20話読めるのがこちらのマガジンです。 https://note.com/ouma/m/m018363313cf4 (今後書くお話も含めて20話になります)
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