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同い年の母親と二人暮らしの男性が考える「人間でよかったなって思う理由」の話
恋人同士なのかと思ったら、親子なのだと知って驚く。二人はどちらも四十代だろうか、ほとんど同い年に見える。海外では日本より離婚がもっと普通なので、再婚した親の連れ子を合わせてたくさんの兄弟がいる人もいる。男性の父親は教え子だった女性と再婚した後に亡くなり、ほとんど同じ年の男性と親子関係のまま、一緒に暮らしているのだと言う。
恋人ではないと言うけど、母と息子とも言い切れないような雰囲気だ。ただ、二人がとても信頼し合っているのはよく分かった。お互いにリスペクトするものが多いのだということが、言葉の隅々から感じられた。
私が彼らに会ったのはデンマーク最北端の町、スケーエンだった。バルト海と北海という二つの海がぶつかる岬で、防波堤によって岬が消失するのを防いでいる。町からバスも出ているがほとんど本数がなく、町の様子を見ながら宿から歩いてきたら思ったより遠かった。
来た時と同じように歩いて帰るにはちょっと憂鬱なほどの距離だと思い、私は車を持っている人に話しかけて町中まで送ってもらうことにした。
海外でのヒッチハイクは危険を伴うので、慣れない人にはお勧めしないが、やる時には自分から信頼できそうな人を探して声をかけるナンパスタイルのほうが安全性は高いと思う。身なりのきちんとした人や、年配の女性、家族連れなどに話しかけると、だいたいは親切に乗せてくれる。今回は女性が一人で車の近くに立っていたので、バス停の場所を教えてくださいと話しかけたら、女性のほうから乗っていくように勧めてくれた。
「息子がもうすぐ戻って来るから、そしたら車で一緒に町まで戻りましょう。そのほうが早いわよ」
ショートヘアの彼女は白っぽい金髪をしていて、化粧の薄い顔にはたくさんのシミがあった。花柄のワンピースを着た彼女は、小さな革のバッグを肩から下げているくらいの軽装だった。サンダル履きの足から見える爪は薄いピンク色に塗られている。
飲み物を買いに行っていた男性が戻ってきた時、彼の髪の白髪の多さと目じりのシワを見て「あれ」と思う。女性は息子と呼んでいたが、見た目の年齢がそれほど離れているように思えなかったからだ。とはいえ、プライベートなことを追求する必要もない。そう思っていたら、彼女に「再婚した旦那の息子なの」と打ち明けられた。
スウェーデンから車で来たという二人は、明日にはスウェーデンに戻るそうだ。
「人生にはいろいろあるけど、人間で良かったなっていうのはすごく感じるよ」
ハンドルを握ったまま、男性が言う。
「どうしてですか?」
「分からない、理由なんかないよ」
市内の駅が見えてきて、彼は車を駅前に寄せて停める。観光シーズンではないのか、市内にはあまり観光客を見かけなかった。お礼を言って車を降りる時に、男性から声を掛けられる。
「理由を簡単に言えないくらい、幸せってことかもしれない。それじゃあ、旅を楽しんで」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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(今後書くお話も含めて20話になります)
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