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一年以上働いてない男性の言う「日本人はどうして元気がないのに頑張るの?」の話
オーストラリアでワーホリ滞在していた時、語学学校のクラスメイトたちと一緒に夜のバーに行ったことがある。お酒を飲まない私は、夜の町を楽しむタイプではないのだけれど、海外のバーがどんな感じが見てみたくてついていくことにした。
バーの前には屈強なボディガードが立っていて、私たちのパスポートを見て年齢確認をする。アジア人は童顔なので、顔を見ても未成年かどうかの区別がつきにくいのかもしれない。
バーに入ってカウンターで飲み物を注文するが、私はお酒の種類も分からないので、とりあえず絶対にあるだろうコカ・コーラをオーダーする。
「バーに来てコーラしか飲まないの? ここはお酒を飲むところだろう」
白髪の多い、目じりにシワのある男性がカウンターの近くにいて、声をかけられる。二人組で、話しかけてきた男性は細長い体型をしているが、もう一人はかなりの脂肪をおなかに抱えている。自分でも気にしているのか、ビールを飲みながらおなかの肉をつまんでいた。
「お酒が飲めなくて」
もともとシドニーに住んでいる彼らは、休暇でゴールドコーストに来ていると言っていた。細長い体型の彼は、日本人女性と付き合っていたことがあり、知っている日本語をいくつか披露してくれる。
「オハヨーゴザイマス、コニチワ」
「あはは、上手です」
「日本人はみんな礼儀正しくて、いつもおじぎしてばっかりいるよね」
「そうですね、そういう風に育ったから、それに慣れちゃってるかも」
「あとさ、日本人ってなんで元気がないのに頑張ろうとするの? みんなそうなの?」
元カノの日本人女性と一緒に暮らしていた時、彼女は海外生活と英語疲れでたまにすごく元気をなくしてしまうことがあったと言う。
「休めばいいのにって勧めてるのに、元気がない元気がないって言いながら、家事や料理をちゃんとしようとするんだ。食べる物なんて適当だって別にいいだろう? 外に食べに行ったっていいわけだし。掃除だってすぐに死ぬほどすごく汚くしているわけじゃない。本を読むとか出かけるとか、好きなことをして元気を回復したらいいと思わないか? 生活にだってすぐに困るわけじゃないし、僕だっているのに。
なのに彼女は、元気が出ないって言いながら、いつも通り仕事をこなして落ち込んでいたんだ。意味が分からなくてさ」
結局、そういうところを理解し合えなくて、別れることになったと彼は言う。
「日本人の勤勉さは素晴らしいけど、時々、君らは人生の何が楽しくて生きているんだろうと感じることがあるよ」
「こいつはもう、一年以上働いてないからな」
「自分の人生だ。楽しんで何が悪い? お金を貯め込んだまま死ぬなんてごめんだね」
彼はグラスに残っていたビールを飲み干して、新しいビールを注文する。
「元気がない時は休めばいい。簡単なことさ」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
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