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桃色のワンピースを靡かせながら商店街を歩く。目指すのは怪しげな貸本屋だ。もうお昼も過ぎた。そろそろお店もオープンしているだろう。 建て付けの悪い引き戸に手をかけた時——示し合わせたように向こう側からドアが開いた。 「あれ。どうしたんですか」 「本を返そうと思って」 「本、ですか」 「はい。あの子がいなくなりました。これで良かったんですよね。ちゃんと役目を果たせたってことですもんね」 そう。朔はきちんと妖精の役目を果たしてくれた。繰り返される毎日にうんざりしていた。美しく無い色ばかりが溢れるこの世界にも……。 だけど、今はこんなにも色鮮やかで眩しいくらいだ。全てのモノが美しく輝いている。朔が世界の色を変えてくれたのだ……。 嶺二は柚月が差し出した本を受け取るとゆるりと口角を上げた。 「大丈夫。また逢えますよ」 「そうですね。じゃあ、行ってきます」 「行ってらっしゃい」 嶺二に会釈をしてから足を踏み出す。見上げた先——空は青く澄んでいる。 「今日はいい天気だね。朔」 柚月は小さく呟くと、ヒールを高らかに鳴り響かせた。
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